自身のゴミ拾い活動からヒントを得て、トングを開発!
新潟県三条市にある永塚製作所で社長を務める能勢さんは、実は京都府舞鶴市の出身。高校生のころに宿業に魅了され、専門学校を経て有名ホテルへ。支配人にまで昇り詰め、着実にホテルマンとしての道を歩んでいました。
しかし、40歳くらいのころ、奥さんの実家である永塚製作所の社長から「跡を継いでくれないか」と相談を受けます。結婚したときは「工場は廃業するからホテル業を頑張ってくれ」と言われていたので、最初は戸惑ったものの、「これも人助けだ」と、三条市にやってきました。
職人とは遠い世界からやってきた能勢さん。今から職人の道を目指すのは難しいと、経営や企画面から工場に携わるようになりました。そんなときに神奈川県の湘南海岸で清掃活動を行う「かながわ海岸美化財団」の存在を知ります。その団体がゴミ拾い用に永塚製作所の火ばさみを購入していたのです。
「こんな活動をしている団体があるのか!」と驚いた能勢さんは毎週末活動に参加するように。そこで清掃活動に参加し、話を聞くなかで気づいたことがありました。
「火ばさみは元々炭を掴むためのもの。ゴミ拾いをするための道具じゃないんですよね。なかなかゴミが取れなくて、『手でとったほうが早い』と手でゴミ拾いをする人もいて。それなら、ゴミ拾いに適したトングをうちで作れないかと考えるようになりました」。
誰でも扱いやすい長さの研究、使っていて楽しくなるデザインなど、試行錯誤を繰り返して製作したゴミ拾いトング「MAGIP」。持ち手と先端に特殊なシリコン樹脂をつけたことで、長い間作業しても疲れにくく、掴みにくかった紙類や濡れているゴミも拾いやすくなりました。
「身体に負担のかからないゴミ拾い用のトングを」。能勢さんがエンドユーザーから聞いた声が清掃活動をする人の大きな味方として生まれ変わったのです。
海岸にあるゴミの8割は街のゴミ。海がゴミの出口になっている現状。
現在、能勢さんはほぼ毎週末、新潟の海に出向き、サーフィンとビーチクリーンを行っています。サーフィンをしに海へ行き、終わったらゴミを拾って帰ってくる。能勢さんの週末のルーティーンです。
他にも、知人の高校生を連れて海に行ったり、キッザニアマイスターフェスティバルで小学生にゴミ問題を伝えたり、毎月第2日曜日に出雲崎町の「井鼻海水浴場」で行われる清掃活動のサポートを行ったりと、新潟県内、全国各地のビーチクリーンに携わっています。
この旅の参加者には、さまざまな地で精力的に活動を続ける能勢さんと一緒に海岸に行き、ゴミ拾い体験をしてもらいます。そのときに聞くお話をちょっとだけ先に紹介します。
私たちが夏に目にする海岸は、ショベルカーでたくさんのゴミを片付けた後。清掃されていない海岸には、赤や黄色、青色など“カラフル”な景色が広がっています。一番の問題は、自然に戻らないプラスチックゴミ。ペットボトルや漁具・農業用資材の袋、ロープなど海岸にはさまざまなプラスチックのゴミが打ちつけられていることです。
その8割は、街でポイ捨てされたゴミや適切に処理をされなかったゴミが排水溝、川を通って海へ流れ出たもの。私たちが日々の暮らしで使ったものがゴミとなり、流れていってしまうのです。
「え、でも海岸には、外国語が書かれたペットボトルや袋のゴミが多いんじゃないの?」
そんな疑問を持つ人もいるかもしれません。確かに海岸には海外のゴミが多くあります。しかし、海流にのって日本に流れ着いただけ。日本で出たゴミは海流にのって、遠くハワイの海岸にも流れついているのです。
「(ゴミ流出の)蛇口を閉めなければいけない」。優しい口調で話し続けていた能勢さんが語尾を強めて語ってくれました。
「拾っても拾ってもゴミは増えていく一方。その課題をちゃんと伝えていく必要があります。行動も情報発信も啓蒙活動になるもの。高校生との交流やキッザニアでの小学生との関わりを通して、蛇口を閉める必要性を子どもたちに伝えていっています」。
誰に強要されているわけでもないビーチクリーンをなぜそんなにも長く続けられるのでしょうか? その秘訣を問うと、「楽しくやるのが一番だよね」と能勢さん流の物事を長く続けるコツを教えてくれました。
「僕は海で自然の厳しさや楽しさを教えてもらいました。だから、恩返しをしたい気持ちが強いんですよね。続けられるのは、まずは自分が楽しむことと、無理をせずに小さくコツコツとやっているからじゃないですかね。
自分が楽しんでいると周りの高校生や小学生にも伝わるのか、みんな楽しそうにやっています。あとは、毎回イベント立てて人集めしていたら疲れてやりたくなくなっちゃうから、できる範囲で続けていくことが大切ですよ」。
まずは自分が楽しむこと、そして小さくコツコツと続けること。どんな仕事をするにしても重要な点ですよね。何かを始めるときはまだ見ぬ企画や事業にワクワクするからこそ、楽しく仕事ができるもの。しかし、企画をスタートさせて持続させる段階になると、モチベーションが下がってうまく続かないことってありませんか?
そんな悩みのヒントを見つけられそうなのが、今回の仕事旅行。旅に参加してくれた人は10年以上ビーチクリーンを続ける能勢さんの生身の声と活動から、自分が小さく楽しく続けるためのヒントを得られるかもしれないですよ。
熱量高く長い時間お話してくれた能勢さん。当日はこうした環境問題のお話から、長く活動を続ける意義を伺います。能勢さんの熱い話に前のめりになって話を聞いてしまう旅になることでしょう。
とはいえ、まずは能勢さんのように自分自身がゴミ拾いを楽しむところから。環境問題を自分ごととして捉え、長く活動を続けるヒントを見出す仕事旅行になりそうです。
男性 いづつ