2023年04月20日更新

【偏愛仕事人インタビュー】#3 植木屋 / ランドスケープデザイナー 谷向俊樹さん「庭の完成はつねに未来にある」


連載 偏愛仕事人
誰もがどんな職業をも目指せる時代。選択肢が多いのは良いことだけど、選択肢がありすぎて逆に道に迷ってしまうということがある。そんな時代の中で、自分の「好き」という気持ちをまっすぐに信じて仕事に結びつけている人たちは、なんだかとても楽しそうに生きている。人生を健やかに歩む「偏愛仕事人」たちの仕事観に迫るインタビュー。


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【偏愛仕事人インタビュー】#3 植木屋 / ランドスケープデザイナー 谷向俊樹さん「庭の完成はつねに未来にある」



偏愛仕事人
〈植木屋 / ランドスケープデザイナー〉
谷向俊樹(たにさき・としき)

1994年、大阪生まれ。植木の日本四大生産地である池田市で、植木屋を営む祖父と庭の施工を行う父の元で育つ。大学卒業後一般企業に勤めたのち、単身南アフリカに渡りレオン・クルーガーへ師事。帰国後は家族が営む緑向ガーデンに所属しながら様々なプロジェクトに携わっている。


南アフリカで修行を積み、現在は地元・大阪の池田市を拠点に活躍する植木屋 / ランドスケープデザイナーの谷向俊樹(たにさき・としき)さん。庭づくりの仕事にはどんな魅力があるのだろうか。話を伺う中で見えてきたのは、クリエイティブな仕事に欠かせない「想像力」と「偏愛」の切っても切れない関係だったー。


−− 谷向さんのお仕事を教えてください。

庭をデザインする仕事、いわゆる「ランドスケープデザイナー」や「造園家」と呼ばれる仕事をしています。実はもう一つ、家が植木を育てて販売する「植木屋」で、その仕事もしています。あんまりいないんですよ、両方やっている人って。普通は植木屋が育てた植物をデザイナーが選ぶ、分業なんです。

−− 植木屋とデザイナーとの両業を志したきっかけは何だったのでしょうか。

祖父が植木の生産を長くやっていて、父親は庭の施工の仕事をしています。実際に石を積んだり、植木を植えたりする仕事ですね。それで学生時代に家族の仕事を手伝っていた時に、庭をデザインしている人を見て「かっこいいなあ」って思ったんです。もし僕が庭をデザインできたら「家族みんなで庭を作れるやん!」って思って(笑)。おじいちゃんが植木を作って、僕がデザインして、父親が施工する。そこからデザインを学び始めました。

−− 庭をデザインする仕事の魅力を教えてください。

植物を使うのがカギというか、建物や家具のデザインとの大きな違いは「生きているものを使う」ってことなんです。植物は生きているから、庭を作ってからも成長する。つまり庭を作るときに不確定要素があるんですよね。それを考慮しつつ作る。だから庭は作った時が完成じゃなくて、5年後とか10年後、その先の未来でより美しくなるように見据えて作るんです。それが魅力の一つですね。

−− めちゃくちゃ面白いですね…。つまりクライアントに渡す時が「完成」ではないと。

はい、だからクライアントに渡した後も、そこに僕らがメンテナンスとして入ることがあります。樹形を整えたり、成長を見越してこの枝を切っておこうとか。それが手渡した後の楽しさというか、そこからまた作っていく。完成はつねに未来にあるんですよね。

−− その未来が裏切られることもありますか?

もちろんあります。想定外の方向に枝が伸びることもあれば、自然災害があることも。例えば台風で木が折れるとか、虫が入って枯れたり、鹿に葉っぱを食べられるとか(笑)。なので「うわーこの木いいかんじやったのに枯れてる~」とか「こうしたらうまくいくと思ってたのにうまくいかへん!」とか、それはありますね。だから難しいですけど、そのぶん面白いです、植物は。

65歳以上を対象にした、植木仕事を3ヶ月間体験してもらうプロジェクトの最終回に、参加者と一緒に作った老人ホームの庭


南アフリカで得た想像力の翼



−− ご自身がデザインした庭の「ここを見てくれ!」というポイントはありますか?

植木屋として植木をタネから作っていることが、デザインの仕事にも大きな影響を与えています。「この植物はこう成長する」というのが分かるからアイデアが湧いてくる。教科書にはこう書いているけど、実はこの植物はこの植物と組み合わせても良いんじゃないかとか、人気がない植物だけどこの植物と一緒だとすごく輝くんだよなとか。だから「組み合わせ」かな。いろんな組み合わせを考えながら毎日生きているので。植物同士はもちろん、プランターとか周りの石とか、そういう他のマテリアルとの組み合わせを意識しています。

−− 谷向さんが手がけた「組み合わせ」を一つ教えてほしいです。

うーん、そうですね…。昨年末に開催した池田市のボタフェスというイベントで、アカマツとグラスを組み合わせたのは良かったかな。針葉樹とイネ科の細長い植物ですね。マツの下にこうグラスがあって、近くで見たらもっとよく分かるんですけど。

アカマツの幹の赤さと、グラスのちょっと赤く紅葉した箇所が光に反射してきらきら光ってるところなんか、良く合うなあと。この組み合わせは他ではあんまり見ないかな。これがその時の写真です。



−− おお、美しいですね…。

でしょう(笑)。今はグラスが好きなんですよ。種類がめちゃくちゃたくさんあって、赤っぽい葉もあれば青っぽいのもあるし、もちろん緑のも。穂先がピンクになるのもあるし、白いのもある。それらを重ねていったときに空間に厚みが出来て、こう全部透きとおって見える感じとか。美しいです。



−− グラスのアイデアはどこから着想したのでしょうか?

南アフリカですね。現地ではレオン・クルーガーさんという世界各国のガーデンショーで受賞しているランドスケープデザイナーの元でインターンをさせてもらったのですが、彼がグラスをたくさん使って美しい庭を作っていたんです。

−− なるほど、南アフリカで。

現地ではワイナリーの改修や庭工事をしていました。ワイナリーの中の小さいナーセリー(栽培園)で植物を大きくしたり増やしたりして、庭に植える仕事です。その中にグラスがいっぱいあって、ほんま毎日さわっていたんですね。もうほんま一日中。千ポットくらいグラスの植え替えをしたりとか(笑)。めちゃめちゃ地味な作業なんですけど。

−− 千ポット!まさに修行ですね…。

その時「なんかきれいやなあ」と思ったんです。それまでただの雑草やと思ってたのに。草の細い線の感じとか、光に当たった姿もめちゃめちゃきれい。しかもそれを他の花と組み合わせるとさらに美しい。背景にもなるし、他の植物を引き立てる役目にもなれる。なんか、すごくいいなあと感動しちゃって。

−− 雑草って今まで注目したことありませんでした。

グラスって主役じゃないですよね。草花や樹木がまあ主役かなと思うんですけど、グラスがあることによって一体感が出るというか、花が一層引き立つというか。枯れてても美しいんですよ。穂が出てきて、それがまたすごいきれいだったり。庭にとってなくてはならない存在だなって気づいたんです。グラスがあることで場がおさまる。

−− 南アフリカで得たアイデアに、日本的なマツを組み合わせるところがグッときます。

実はグラスは今の世界的な流行りでもあるんですよね。ナチュラルさを演出するというか。ただ僕がやる意味としては、ナショナリティというか日本だからこその視点を織り交ぜることかなと。そういうことをやっている人は今は少ないと思うので、うまく組み合わせてお客様が喜ぶ素敵な空間になるといいなと思っています。

地元・池田市で開催された、植物とアートのフェス「BOTAFES」で装飾したメインステージ


好きだからこそ知ろうとする、
知っているからこそアイデアが膨らむ



−− 「未来を見据えるデザイン」や「組み合わせの工夫」など、お話を伺う中で、美しい庭づくりには想像力が必要だと感じました。谷向さんはどのように想像力を養っているのでしょうか。

できるだけたくさんのものを見るとか、植物の特性を知るのは大切ですよね。種類によって早く成長するのもあれば、上へ横へと大きくなるのもあるので、そこらへんを知っておくこと。あとは他の人のデザインを見たり、昔の人が作っている庭を見たり。それもただ眺めるだけじゃなくて「これはこういう風に意図してるのかな」とか「これは今後こうなっていくんかな」みたいに自分なりに考える、とかですかね。

−− その視点は日々の生活の中でも養われていますか?

そうですね。常に考えていますよ。普通に町を歩いている時にも「この庭いいなあ」とか思いますし。まあ、好きなので(笑)。好きだからできるというかね。

−− 「勉強のため!」とか「学ぶため!」ではなくて、好きだから自動的に学んでしまっている、と。

南アフリカのレオンさんもそうでした。あの人もすごく植物が好きなんですよ。めちゃめちゃ好きで、たまに休みがあれば山に行って植物を見てるみたいな。何もしない日はほぼなくて、ずっと植物のことや庭について考えたりふれたりしてる。好きなんですよね、単純に。そういう日々の積み重ねが、想像力やアイデアにつながるんだと思います。

−− 「偏愛」と「想像力」の切っても切れない関係が見えてきた気がします。好きだからこそ、どんどん追求して、結果として想像力が養われる。

ほんまその通りだと思いますよ。好きだからこそ自然と追求しようとする。そして知れば知るだけアイデアが膨らんでいく。それに人に伝える時も「これは美しいんだぞ!」「本当にいいんだぞ!」って、心の底から伝えられる気がします。

−− たしかに、身に覚えがあります。

好きなことを話してると熱が入りますから、それが相手に伝わるんじゃないですかね。そういう熱のある人と話したり仕事をするのが面白いんですよね。自分自身も何かに情熱持ってる人に魅力を感じます。

−− さいごに、谷向さんにとって「仕事」とは?

仕事ではあるものの、あんまり「仕事」とは思わないですね。つねに好きなことやってるみたいな、休みの時も、仕事の時も。もちろんクライアントの意向はありますが、それを加味して自分が作りたいものを作るというか。だから何でしょうね、働くとは「楽しいこと」ですかね。



編集後記


 奈良の宮大工の口伝に「堂塔の木組みは寸法で組まず木の癖で組め」というものがある。
 木造の建物を建てる際、多くのばあい木の性格が出ない合板が用いられる。木の個性を殺し、平均化することで、仕事のスピードを上げるためだ。すると今度は使いやすい木を求めて、曲がった木が捨てられるようになる。そうして効率を優先した結果、木材はみるみる間に不足し、木の癖を見抜く職人の目は失われつつある。
 一方で宮大工の口伝は「癖を活かせ」と言う。それぞれの木の個性を見抜いて使用するのは難しいし時間がかかるが、その方が長く持つ建物ができるからだ。「1000年先」という時間を見据えて建物を造る宮大工にとって、木の癖を使いこなすのは必須の技なのだろう。
 谷向さんが手掛ける庭は癖が強い。素直にこじんまりとまとまっていないところが好きだ。彼自身の性格や南アフリカでの経験はもちろん影響しているだろうが、「植木屋」として植物の性質をよく知っているからこそできるデザインなのではないかと思う。一つ一つの植物を愛し、癖と癖とを組み合わせた庭には、きっと彼にしか表現できないエネルギーが宿るに違いない。
 「植物は難しさもあるけど、やっぱり面白いです」。谷向さんが笑いながら話す姿に、宮大工の棟梁・西岡常一の姿が一瞬だけ重なって見えた。

(取材/編集 椋本湧也)

この連載のアーカイブ

★植木屋 / ランドスケープデザイナー 谷向俊樹さん「庭の完成はつねに未来にある」【偏愛仕事人インタビュー#3】
★ファッションデザイナー 志和木来さん 「生地への偏愛」【偏愛仕事人インタビュー#2】
★宇宙工学研究者・久保勇貴さん「ものが動いたり変形したりすることが、単純にかっこいい。」【偏愛仕事人インタビュー#1 】
連載もの: 2023年04月20日更新

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