2022年12月23日更新

日本語を使った"国際貢献”の現場がこんなに身近にあるなんてー編集職人による仕事旅行レビューvol.9

仕事旅行づくりを手伝ってくれている編集職人の皆さんが、みずから仕事旅行を体験。そこで学んだこと、感じたことを自分の言葉で直球レビューします。※写真は参考。「日本語教師になる旅」の別の実施回に許可を得て撮影したものです。

仕事旅行の編集職人としての大事な活動のひとつ、レビュー記事作成。

内容はもちろんだが、日本語としての言い回しやちょっとしたニュアンスの違いなどを指摘されて返ってくる原稿を見るようになってから、私の中で急にひとつの「言語」として日本語がクローズアップされてきた。何十年も使っている母国語のことを、実はあまりよくわかっていなかった自分に気づいたのだ。

では、その日本語を「外国語」として学んでいる人たちは、日本語をどう捉えているのだろう?

日本語教師という職業の実際は? そして日本語を「外国語」として学んでいる現場はどんなところ?

この二つに対する好奇心を同時に満たしてくれそうな仕事旅行、それが今回申し込んだ「日本語教師になる旅」だ。

地下鉄丸ノ内線・新宿御苑駅を降りて徒歩5分ほど。2014年に建てられた7階建て+地下1階の立派なビルが、今回の旅の舞台「KCP地球市民日本語学校」(以下KCP)だ。

留学生たちがたむろするイートスペース横の一室に入ると、細身で日本人形のような黒髪、知的な黒縁のメガネが印象的な高橋先生(午前の部担当ホスト)が、おおらかな笑顔で迎えてくださった。もうひとりの参加者さんとの簡単な自己紹介のあと、いよいよ午前のプログラムがスタート!

【1.日本語学校と留学生の現状について】

まずはKCP日本語学校や留学生の概要や日本語学校を取り巻く状況についての座学から。

ホワイトボードには「KCP日本語学校=法務省告示校」と大きく書かれている。
法務省はなんとなくわかるが、「告示校」って? 

簡単に言うと「法務省から所定の基準を満たしていると認められた(告示された)日本語教育機関」ということ。

日本に留学したい外国人学生の立場からすると、法務省告示校は「日本国によって一定以上の品質を保障されている、きちんとした日本語教育機関ですよ」ということになる。

留学生のKCPでの在籍期間は、最長で2年間。卒業後は多くが日本の大学・専門学校などへ進学していく。出身国は中国が半数以上を占め、その次は意外にもベトナム。韓国・台湾・ネパール・スリランカ・モンゴル・タイ・インドネシアなどがそれに続く。

日本のアニメ人気もあって、美術系の大学を目指す学生も結構多いそうだ。

アメリカやヨーロッパからの学生もいるが、あまり多くはない。近年はむしろ、リタイアした年配者や普通の社会人が、趣味や教養の一環として日本語を学びに来るケースが増えているのだそう。

KCPは「進学目的で来日する留学生のための日本語学校」としての立場をしっかりと打ち出し、留学生たちを「全方向から」支える。

来ている留学生は大半が10代後半から20代前半の、いわゆる人格形成の途中の若者たち。出身国によっては、勉強以外のことをほとんどやったことがない状態で来る子も少なくない。

「信じられないけど、朝はアイスクリームひとつだけで学校に来て、昼ご飯はお菓子、とかね。そんな生活を続けていたら体を壊すし、勉強も続かなくなるわよね。生活全般の指導をしていくことも時には必要になってきます」。高橋先生は言う。

課外授業や伝統行事にチカラを入れているのもKCPの特長。これらは自由参加ではなく、授業の一環として学生たちの出席日数にしっかり入れられている。

語学学校の先生は語学だけを教えるのだと思っていたので、こうした話には非常に驚いた。「語学を学ぶっていうのは、その国の文化をも、まるごと学ぶことですからね。」と高橋先生。

【2.日本語の難しさを知る】

さっそく、その語学であるところの日本語の授業のレクチャーに入る。ここまでにこやかに語っていた高橋先生が、急に威厳漂うベテラン先生モードになり、私たち参加者も慌てて生徒モードへ。

日本語は大きく「名詞文(学校です。パンです。)」・「形容詞文(ステキです。大きいです。)」・「動詞文(買います。持ちます。)」の3つに分かれるそうだが、中でももっとも習得が難しいとされる「動詞文」の文法を少しだけ習う。

「五段活用」や「上一段活用・下一段活用」・「カ行・サ行変格活用」などを国語の時間に習ったのをなんとなく思い出す。

これらをそのまま教えるのは外国人学習者にとっては少し難しいので、日本語教育の場面においては大きく3つのグループ(1グループ:五段活用、2グループ:上一段・下一段活用、3グループ:カ行・サ行変格活用)に分けて教えることになっているそうだ。

と、ここまで習ったところでさっそく小テスト。動詞がズラッと並んだプリントを配られて、さきほどの3つのグループ分けと、「て形」と呼ばれる「〇〇して」のカタチに変えていく課題を5分ほどでおこなう。

日本語ネイティブの私だが、14個の動詞のうち4個もグループ分けを間違ってしまった。

また、「〇〇して」のカタチに変化させるのも、同じグループの動詞でも異なることもわかった。

たとえば、「帰ります」「泳ぎます」「飲みます」は3つとも1グループ(五段活用)の動詞だ。だが、「て形」に変化させる場合、「帰ります」は「帰って」となるが、「泳ぎます」は「泳って」とはならない。「泳いで」だ。「飲みます」は「飲って」や「飲いで」ではなく、「飲んで」とこれまた微妙に違うカタチに変化する。

普段はほとんど何も考えずに、これらの数多くの語形変化を自由自在に操って喋っているのだ、私たち日本人は。

【3.授業見学(中級クラス)】

日本語の難しさに眉間にシワを寄せつつ、座学を切り上げて実際の授業見学に向かう。

今回見学したのは中級クラス(履修1年半ほど)の授業。「消費の歴史」というテーマで、今日はバブル期の1980年代あたりの日本の状況について学習している。

一番驚いたのは、先生が話す日本語のスピード。日本の普通の中学・高校の授業とほぼ変わらない。ときどき生徒を指名して文章を読ませたり、書かれていることに対して質問をしたりするが、生徒たちはかなり流暢に読んだり答えたりしている。

あとで高橋先生に「たった1年半であんなに早いスピードの授業についていけるんですか?」と尋ねると、事前に予習したり解説したりはあるが、教師が話すスピードはそのくらいが普通だとのことだ。

もし私が留学したとして、たった1年半であんなスピードの授業についていけるだろうか?来日して日本語学校に入学し、遅くとも2年後には進学するという留学生たちの意気込み、スピード感が感じられる授業だった。



【4.留学生にインタビュー】

午後のプログラムの最初は、上級クラスの学生へのインタビュー。今回は中国からの留学生。午後からのホスト・菊池先生に付き添われ、学生さんが緊張した面持ちで私たちの目の前に座る。

彼女は、本当なら高校卒業後すぐに日本に留学するつもりでいたところ、コロナで来日が不可能になり、2年間オンライン講座で日本語の勉強をしながら粘り強く留学の機会を待っていた。日本政府の外国人受け入れ方針に振り回されながら、今年になってやっと来日することができたのだそうだ。

上級クラス在籍とはいえ、まだまだ日本語を勉強中の留学生からいろいろな話を引き出すのは正直難しい部分もあった。が、「コロナで、中国では貧富の差が大きくなった。コロナで職を失った人は本当に大変。どうしてこんな不平等が起こるのか、どうすればより良い社会になるのかを学びたくて、社会学に興味を持った。日本の大学で社会学を学んで、故国に帰って地域社会のために何かしたい」と一生懸命話してくれたことが、とても心に残った。

日本の大学入学は留学生にとってはかなり狭き門だそうだが、同じく大学進学を目指す娘を持つ母親として、彼女がどうか希望の大学に入れますように!と祈らずにはいられなかった。

【5.初級クラスの小グループでの会話に参加】

午後の最後のプログラムは、初級クラスでの会話補助。学生3〜4人ほどの小グループに参加者が一人ずつ入り、日本語で会話する。

今回のお題は「日本の秋について」。秋にちなんだ食べ物やイベント・景色のキレイなところなどについて学生たちがあらかじめ日本語での質問文を用意しているので、それに答えて下さい、とのことだ。

クラス全体への挨拶を済ませたあと、小グループに飛び込む。軽く自己紹介したあとでさっそくお題について会話スタート。一人ひとり、用意してきた日本語で一生懸命質問してくれる。

事前に菊池先生から

「できるだけ、『です・ます』で文を区切るようにしてください。まだ『〜なんですけど、それで...』や『〜だとしたら....』というようなツナギ言葉はあまりわからないかもしれません。」

と教えていただいていたのだけど、会話に夢中になると、ついつい使い慣れたツナギ言葉が口をついて出てきてしまう。

ツナギ言葉を使わずに話そうとすると、私自身がだんだん、テレビに出てくる日本語初心者の外国人タレントのような、ちょっと変なしゃべり方になってきてしまうのである。
自分は日本語ネイティブだし、何とかなるだろうくらいの気持ちで臨んだのが甘かったのを思い知らされた。初級者との日本語会話が、こんなに難しいなんて!

最後に施設全体を見学させてもらって、丸一日、盛り沢山の仕事旅行は無事終了した。

【6.学んだこと】

小さい頃から英語が好きで、国際交流にも興味を持ち続けていたが、今考えると自らが外国語を習得することや、留学など海外に出ることの方にしか視線がいっていなかったように思う。特に日本では、英語やフランス語といった欧米系の言語が話せるほうが「国際派」である、と見られる傾向が強い、ということもあるかもしれない。

母国語である日本語を通じての国際交流の現場がこんなに近くにある、ということに気付かされた、貴重な経験だった。

ジャパニーズ・アニメ人気がメディアで取りあげられたり、また「コロナ収束後に訪れたい国」1位に選ばれたことも話題になっていたが、どこか他人事のように感じていた私。
この旅を通じて「日本に興味を持っている人がこんなにいる!」ということを肌身をもって知ることができた。

菊池先生は言う。「日本語学校って、特殊な場所っていうか、普通の人は入れない場所、みたいなイメージがちょっとありますよね。でも全然そんなことはなくて、むしろボランティアなどを通じて沢山の人に関わってほしい。特にコロナ禍であまり外出やアルバイトができず、せっかく日本に来てもナマの日本人と関わったり会話をする機会は、留学生にとって本当に少ないんです。」

「普通の日本人」である私が感謝され、役に立てる現場が、ここにある。そんなことを心から感じられた旅だった。

記事:木下清香(編集職人)


【この旅の詳細】

★日本語教師になると「もうひとつの日本」が見えて来る。留学生や先生との交流でポジティブなエネルギーをもらう

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仕事旅行ニュウス: 2022年12月23日更新

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