2016年02月09日更新

『私の仕事』のつくりかた —プロフェッショナルコーチ 土屋志帆の仕事—【インタビュー後編】

写真 : スマホでスカイプ(音声)を利用して行うことが多いコーチング。音楽を聴いているわけではなく、これがお仕事スタイル。

「これが『私の仕事』です」と言えるものを見つけた人に、そこにたどり着くまでの道のりや原動力となったものを尋ねるインタビュー連載。聞き手は「ライフスタイル」「医療」「食」など幅広い分野の取材を手がけるライターのやしまみき氏(構成・撮影も)。

仕事旅行で「アシュラワーカーになる旅」を主催している土屋志帆さんへのインタビュー(後編)です。(「シゴトゴト」編集部)。


前編はコチラ

転職を決めたのに、それ以外にやりたいことが見えてしまった土屋さん。気持ちの乖離に悩むなか、『私の仕事』にどうやってたどり着くのか?

四足のわらじを履きながらキャリアをリソース(資源)に


-仕事とやりたいことの狭間にいる生活はどのくらい続いたのですか?

土屋(志帆氏※以下、土屋)  もがきながら、2年くらいでしょうか。
次第にその状態が苦しくなっていき、最終的にはコーチングの資格の勉強をしつつ、通常の業務も続け、さらに転職活動を始めました。母親業も入れると、四足のわらじですね。

ところが、そうやって動いていると不思議とご縁がやってきたのです。
「コーチングを学んでいてキャリアカウンセリングができる人」を募集している情報が(笑)

-それはまたピッタリな!

土屋 そうなんです。すぐに手を挙げて、あとはトントン拍子に進みました。
コーチの副業もOKとのことだったので、いきなりの独立ではなく、やりたいこととやれることが両方実現できるアシュラワークをしていきたかった私にはまさにピッタリでした。

-そのときの「私の仕事」というと?

土屋 コーチ、会社員、母親が同列にあり、どれもが「私の仕事です」と言える状態ですね。
3つめの会社にいるときは、いろんなことに余裕ができて、自分にとって、その瞬間のベストバランスをつくれた気がします。

その頃、「今の世の中にどんな問いかけがありますか」というテーマの「フューチャーセッション」というワークショップに参加したのですが、改めて私には、働き方についての問いかけがあると思ったのです。

一社でずっと働き続ける、お父さんが稼がなければならない、自分の会社の名刺だけ、というような働き方に対する問いかけです。もっと柔軟に自由でいいんじゃないか、働き方もひとつじゃなくていいよね、いろんな顔がある自分が認められたらいいよね、と。

-それがアシュラワークですね。

土屋 ええ。そこで出会った同じように考える仲間が、いまのアシュラワークのメンバーです。

ウェブデザイナーのメンバーが、阿修羅像をモデルにしたロゴをデザインしてくれました。
私は、デザインはできないけれど、場をまとめたり、進行したりするファシリテーションや、コーチングとしての関わりは得意です。
このようにお互いが得意なスキルを出し合って、横につながって活かし合うというのも、アシュラワークの考え方。

-いろいろな顔を持つ自分以外に、様々な人ともつながるのですね。

土屋 個人としてどんな顔があり、どんなやりたいこと、つまりwantがあるかを言える状態であれば、まわりとつながれます。

会社組織でのタスクといった感じではなく、あるものを活かしながら、オープンにつながることが自然だし、エコなのではないでしょうか。
そういうチームは、信頼感があって、すごく強いのではないか。そんなアシュラワークの世界観をもっと発信していきたいと、ワークショップや研修も行っています。

お金にこだわらないことがwantを見つける鍵


-“やりたいこと”と生活の糧としての“仕事”は、なかなか両立が難しいこともあります。

土屋 そうですね。やりたいことについて、最初はお金にこだわらないほうがいいと、私は思います。
「それ一本で生活できるかどうかわからず不安だ」という気持ちが先に立つと、結局、”本当のwant”さえ閉じ込めてしまうことになるからです。それでは何も始まりません。

私がコーチングをやりたいと思ったのは、「この知恵は誰かに届けなきゃ」という純粋意欲からです。「それをやりたいと、心がうずくのか」が、最初だと思うのです。

-その次は?

土屋 その気持ちが本当かどうかは、やり続けられるかどうかで決まります。
もしその気持ちが三日坊主で終わったとしても、それはひとつの答えです。

でもコツコツとやり続け、プロフェッショナルになれば、それを世の中にどう還元できるか、活かせるかというところまで大きく輪が広がる。その先に、稼げる、それで食べていけるというのがあるのかもしれません。

-日本ではまだ副業(復業)禁止の会社も多いのが現実です。

土屋 公務員だけれど地域活性に興味があって、自主的に勉強会を行っている方などもいます。そういう方は収入に関係なく、二枚目の名刺をもっていらっしゃいます。

また、会社で働きながらも、シェアハウスのオーナーになる夢を持っていて、今はいろいろなシェアハウスを旅しているという方もいます。いろんなノウハウが蓄積されていけば、いつかシフトするきっかけになるかもしれませんよね。

つまり、職場での役割や肩書きがあっても、思考は自由。
だからこそ、いきなりの転職や、それで暮らしていけるかなどお金のことを最初に考えないほうが自由でいられるのです。

心のうずきをキャッチして、小さな一歩を踏み出さなければ未来はない



-「何かが違う。でも何がやりたいか、具体的に見えない」という人は多いのでは?

土屋 本当にやりたいこと、心からやりたい仕事を見つけたいけれど、それが何かがわからないという人は、コーチングのクライアントさんにも多いですね。

私は、”今”の自分の感情、先ほども言ったようなうずきを、いかに流さずにキャッチするか、そして小さな一歩が踏み出せるかどうかがすべてだと思います。

-その一歩がなかなか踏み出せません。

土屋 私自身、キャリアカウンセラーをやりながら、コーチングとは違うという苦しさを感じつつ、転職活動をしていました。そんなふうにジタバタしてみる、動いてみるということが大事だったと思っています。
そこに答えはないかもしれないけれど、動かなければ、答えがないことすらわかりません。

小さな一歩を踏み出し、何かがさらに響くなら、次にまた一歩を踏み出す。その連続でしか未来はないのです。

-突き詰めれば何か出てくるものでしょうか?

土屋 心のうずき、ざわつきに耳を澄ませて、自分の感情を大事にすることではないでしょうか。
人はどうしても、「そんな夢みたいなこと言ってもしょうがない」とか、「親が反対するだろうな」と考えて、自分の本当の声を捨ててしまうのです。
その感情をうまく整理するために、利害関係のないコーチのような第三者を役立てることも、いいと思います。

あとは、自分の負の感情に向き合うことも大事ですね。

たとえば、誰かに嫉妬するというような感情をネガティブなものとすると、本当の気持ちに蓋をすることになります。
でも、嫉妬はエネルギーにもなるサインなのです。

-嫉妬という負の感情がサインですか。

土屋 とてもいいヒントですよ。
なぜなら嫉妬する相手というのは、自分がすごく興味のある相手だということ。そして相手のようになりたいのに、そうなれていない自分がいるから起こる感情です。

うらやましいという気持ち、ライバル心、怒りや憤りさえも、奥底に自分の願望があるからこその感情。
ならば負の感情をネガティブなものとして押し殺すのではなく、そうした感情があることを認める。それをエネルギーにすれば、負の部分は昇華させることができます。

可能性は肩書きだけでは決まらない



-土屋さんが、『私の仕事』にたどりついた原動力はなんだったと思いますか?

土屋 負の経験を認めたことで、自分の本当の声を聞けたことですね。

以前の私にとって、離婚は自己肯定感が下がった触れたくないことであり、負の経験。ないものにしたい気持ちから、見ないふりをしていました。
けれどもコーチングを学ぶなかで、自分の感情を閉じ込めていること、その息苦しさがまだ今もあることに気づいたのです。

-蓋をしていた感情ですね。

土屋 ええ。今、自分にどんな感情があるかを見つめながら、その負の経験に向き合うことで、昇華させることができました。

コーチングで自分に向き合い、負の経験を自らで認められたからこそ、それが必要な人はほかにもいると思いました。自分がその手助けをしたい、痛みを持った人と一緒にいられるようなコーチになろうと思えたのです。

誰かに言われたからではなく、自分で自分の声を聞けたことが、原動力だと思います。

-アシュラワーカーとしてどんな未来を描いていますか?

土屋 再婚によって生活の拠点が変わることもあり会社を辞めましたが、コーチの仕事は、インターネットを使ってできるので場所を選びません。幸いにも、この2年でコーチングのクライアントさんも増え続け、今ならもう大丈夫だなと根拠のない自信もつきました。

個人が自分らしく生きやすくなり、次に誰かと一緒にリンクしていくとき、心地いい関係性の状態で、自分を活かせたらいいですよね。私は、そういう思いで、”一対一”で行うパーソナルコーチとして、また”一対多”という複数人数にコーチングを行うシステムコーチとして、クライアントをサポートしたいと思っています。

10年もたてば、育児という比重も減るでしょうし、自分にも変わっていく部分はあると思います。

私は、自分がやりたいというものが真ん中にあって、自分を信じて解放していくことで、無限の可能性で繋がりあう世界があると思うのです。

世の中はまだまだ捨てたもんじゃない。私にないリソース(資源)を持っている多様な人がいる。だからこそ新たにコラボレーションしていく案件もあるでしょうし、可能性というのは肩書きだけで決まるものではありません。

それが”アシュラワーカー”ですし、そんな感覚で、変わり続けられたらいいのかなと思います。

聞き手・構成・写真:やしまみき(ライター)

プロフィール(インタビュアー)
やしま みき

ライフスタイル、医療、食など幅広い分野の取材を手がけるライター。anan、婦人公論などの女性誌、書籍、ウェブでの取材記事をはじめ、ナレーション、イベントの構成台本まで活動範囲は多岐にわたる。『永遠に「キレイ」を続ける方法』(前田典子・光文社刊)、『美人は食事でできている』(石原新菜・宝島社刊)など、書籍の編集協力も多数。


ロングインタビュー: 2016年02月09日更新

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