2019年10月09日更新

時を重ねて、相棒のような存在へ。“在庫ゼロ”のぬいぐるみ作家・チャウテセイの生き方

縫製歴34年のベテランぬいぐるみ作家、チャウテセイさんが手掛けるぬいぐるみは、どれもネットに出品するなり早々に売り切れるほどの大人気。ファンの心を掴んで離さないチャウテセイさんに、ぬいぐるみ作りへの想いをたっぷりと伺いました。

クレーム対応の仕事で実感した、ぬいぐるみ作りに大切なこと

ーーチャウテセイさんがぬいぐるみ作りを始めたきっかけを教えてください。

それがはっきりと思い出せないんです。作り始めたのは3歳くらいだと思います。両親が縫製業に携わっていたので、私は余り生地を使って遊ぶようになって。しばらくして父が子ども向けのトイミシンを買ってくれたので、それを使って縫い始めました。このときから今日に至るまで、洋服とか他のものを作ろうと思ったことは一度もないんですよ。

ーー子どもの頃からぬいぐるみ作り一直線だったのですね。

そうです。小学校に入ってからは手芸本を参考にしたり、自分でカスタマイズしたりして、羊毛フエルトで一日中ぬいぐるみを作っていました。よく驚かれるのですが、スクールなどで作り方を学んだことはないんです。小学校高学年になると、作ったぬいぐるみを販売し始めました。

ーー小学生のときにぬいぐるみを売り始めたのですか?

はい、最初は知り合いに。もう少し大きくなると、1人で商店街に行って喫茶店のおじさんに買ってもらいました。商売人の家で育ったので、物を売ることに抵抗がなかったんです。作るのも、自分がかわいがるためではなく、誰かに手にとってもらうためでした。売値から逆算して生地を変えるなど原価調整のようなこともしていて、いやらしい子どもでしたね(笑)

ーー作るだけでなく、早いうちからビジネスを意識していたとは驚きです。

変わってますよね(笑)。でもぬいぐるみのことしかしていなかったわけではないですよ。いろんな経験がぬいぐるみ作りの要素になるかなと思ったので、大学ではマーケティングや認知心理学を勉強しましたし、ぬいぐるみとは関係のない仕事もしました。特に楽しかったのはクレーム対応の仕事ですね。カードローンの督促などをしていました。これがすごく楽しかったんです。

ーークレーム対応の仕事が楽しかったのですか? それはかなり変わっているような…

人の多様な感情に触れられるのが楽しかったんです。同じ状況でも、全然怒っていない人もいれば、めちゃくちゃ怒ってる人もいて。事実は変わらないのに、感じ方は人によってこんなに違うんだと驚きました。そのとき、ぬいぐるみ作りにも通じるものがあるなと思ったんです。

ーーぬいぐるみ作りとクレーム対応に通じるもの?

はい。クレームに多様性があるように、人が何をかわいいいと思うかにも多様性があります。だからぬいぐるみを作るときは、「この子はこんな人に手に取ってもらえそうだな」ということは結構考えますね。例えば同じ『ラシーちゃん』というキャラクターのぬいぐるみでも、こっちのラシーちゃんは「ボブカットでピンク色のトレーナーを着ているようなガーリーな女の子」が、こっちのラシーちゃんは「シンプルが好きで大人しいけど、かわいいのが好きな人」が気に入ってくれるかな?というように。

ーー1つのキャラクターでも、まるで全く違う彩りだったり生地の組み合わせだったりするのは、そういうわけなのですね。各キャラクターにはコンセプトを設定していますが、キャラクターを作るときはまずコンセプト作りから始まるのでしょうか?

そうですね。まず最初に伝えたいテーマがあって、それを「どう表現しようか?」というところから始まります。たとえばうさぎの『ラシーちゃん』は、両手を後ろに隠した形が特徴なのですが、「全てが完璧な人っていないけど、それぞれの足りないところを補って生きていけますように」というメッセージが込められています。でも、全部が全部そんな風に作るわけじゃないですよ。「イヌ年だから犬作ろ」というときもあります(笑)


私が作っているのは"役に立たないもの"? ぬいぐるみの価値って何だろう



ーー今はどのくらいのペースでぬいぐるみを作っているのですか?

年間140体くらいです。Baseでのネット販売に加えて、即売イベントや個展もあるので、常に「作って、売って」を繰り返している感じです。

ーー買ってくださる方はどんな方が多いのですか?

20代中盤から30代中盤のコレクターの方が多いですね。就職して何年か経ち、自分の趣味にお金が使えるようになったぐらいの方だと思います。リピーターの方もいて、本当にありがたいです。

ーー先ほど「人の感情に触れるのが楽しい」と仰っていました。実際はぬいぐるみを売ってしまったら、そこから先はどのような感情がお客様のところで生まれているのかを見ることはできないと思うのですが…。

そんなことないですよ。買ったあとも、ぬいぐるみとの生活の様子を教えてくれるお客様がたくさんいるんです。ぬいぐるみには製造年月日を記載したお誕生日タグをつけているのですが、あるお客様は「1歳の誕生日です!」と、ケーキでお祝いしている写真を送って下さいました。趣味で編み物を始めたお客様からは「初めての作品はこの子にマフラーを作りました」と報告をいただきました。

ーー産みの親であるチャウテセイさんに報告をして下さるのですか!

そうなんです。私が作り上げたときはただのモノだったのに、お客様と一緒に過ごすことでどんどん価値ある存在になっていくのを感じると、本当に嬉しいですね。

ーー今ではそんなファンの方がたくさんいらっしゃるチャウテセイさんですが、ぬいぐるみ作家としてやっていくことに不安を感じたことはないのでしょうか?

無いですね。ただ昔は、「私は役に立たないものを作っているのかもしれない」と思うことはありました。無くても死ぬことはない、生きていく上で必要のないものなんだと。でもお客様の大切なぬいぐるみを修理する『ぬいぐるみのお医者さん』の仕事を始めてからは、考え方が変わりました。

たとえば1000円くらいのぬいぐるみでも、30年一緒にいたら、持ち主にとっては何十万円でも売りたくない大切な存在になるんです。「私はぬいぐるみを作るだけだけど、買った人がそのぬいぐるみに付加価値をつけていく。そこに意味があるんだ」と気づきました。

ーー作ったぬいぐるみがお客様に愛され、時を重ねる中で大切な存在に変わっていくことに、本当の価値があると気づいたのですね。

そうです。私の作ったぬいぐるみがお客様と生活をともにしていく中で、その人の相棒的な存在になればいいなと思っています。

〜チャウテセイのコンセプト〜
音楽のように耳に聞こえてこないけれど
ごはんのようにお腹をいっぱいにできないけれど
君が上を向いていない日も
君の見えるところに一緒にいられますように。
人々に寄り添っていける懐かしいぬいぐるみをコンセプトに
さんさん村にくらす仲間たちは今日大切に縫い続けられています。
さんさん村の陽が、君にも惜しみなくふりそそぎますように。


誰かの「あいのかたまり」の一部になれたら。個展への想い



ーー『ぬいぐるみのお医者さん』のサービスですが、作家の方がぬいぐるみ修理を手がけるのはとても珍しいと聞きます。

そうですね。そこを面白いと思って下さっているのか、修理の依頼は受けきれないくらい来ます。私の作ったぬいぐるみを買ってくれたお客様だけでなく、SNSを見たり、口コミで知ったりして依頼してくださった方もいます。

ーー修理前後の写真を見ましたが、ここまで見違えるのですね。

ぬいぐるみを裏返して裁断したラインを見ると、最初にデザインした人がどういうシルエットで作りたかったのかが見えてくるんです。そうすると、「いまはこの姿だけど、最初はきっとこんな形だったんだろうな」と想像がつくので、そこからヒントを得ることもあります。



ーーぬいぐるみを作りながら、修理もして。制作時間を確保するのは大変ではないですか?

そんなことないですよ。時間はいくらでもあります。平日はフルタイムでWEBデザインの仕事をしているのですが、家に帰ってからぬいぐるみのために8時間はあてられます。

ーーお昼の仕事や生活に必要な時間以外は、全てぬいぐるみにあてているのですね。

私の部屋には作業用の椅子しかないんですよ。それ以外はベッド。普通の人って、ソファに座ってテレビを見たりするらしいんですが、私の人生にそういうことは一切ないんです(笑)。土日も遊ばない限り作っていますし。家に帰って「ただいまー」と言って、作業場の椅子にふっと座る。これが普通です。でも縫いながらラジオは聴けるし、YouTubeも見れるし、友達と電話もできるので何も困らないですよ。マンガを読みながら音楽を聴くのと同じ感覚だと思います。

ーー作業に没頭しながら他のこともできるとはさすがです。話は変わりますが、チャウテセイさんは個展を継続的に開催しています。初回はなんと13年前なのですね?

そうです。13年前に突然「やろっ」て思って(笑)。ギャラリーを決めて1週間後にお金を払い、あとはとにかく宣伝しました。ブログやmixiのコミュニティで告知をしたり、DMを知り合いに配ったり、チラシを友達のカフェに置かせてもらったり。そうしたら初回にもかかわらずたくさんの方が来てくれて、1年かけて用意した約100体がきれいに売れて行きました。

ーー初回から完売とはさすがですね…。2019年11月に開催予定の個展「あいのかたまり」について教えていただけますか?

今年の個展は昨年から続く三部作の二部目になります。人っていろんな好きなものや心地のいいものを集めて生きていますよね。「ぬいぐるみがその人にとって気持ちの良いものの一部になって、その世界で生きていけたら」という想いでこのタイトルをつけました。ぜひたくさんの方に来ていただきたいです!

ーーチャウテセイさんのぬいぐるみ作りへの想いがストレートに表現されたタイトルですね。どんなぬいぐるみたちに会えるか楽しみです。チャウテセイさん、お忙しい中ありがとうございました!


■ぬいぐるみ作家/ぬいぐるみのお医者さん チャウテセイさんプロフィール

父はシューズデザイナー、母と祖父母は婦人服のテーラーメイド業という家庭に生まれる。1985年にそんな両親、両祖父母の影響とふんだんにある資材で縫いものをはじめ、 2006年に「ぬいぐるみのチャウテセイ」として活動開始。オリジナルキャラクター・さんさん村のなかまたち他、チャウテセイの総合的なプロデュースを行う。縫製歴34年。HPtwitterInstagram

<個展・あいのかたまり>
日時:2019年11月20日(水)~11月24日(日)12:00~19:30 ※最終日は17時まで
場所:自由帳ギャラリー(東京都杉並区高円寺北2-18-11)高円寺北口徒歩3分









(取材・文:一本麻衣)
ロングインタビュー: 2019年10月09日更新

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