2018年05月09日更新

蒼井ブルー仕事を語る【前編】:真面目ウジウジな自分をエンタメにして、僕はだれかの"暇つぶし"になりたい

蒼井ブルー(あおい・ぶるー)さんは文筆家であり写真家でもある。

Twitterでの日々のつぶやきが「ゆるくて、切なくて、笑える」と話題となり、それらの言葉をまとめた『僕の隣で勝手に幸せになってください』(2015年)をはじめ、これまでに6冊の書籍を発表している。

蒼井さんがこの春に上梓した新著が『ピースフル権化』。本書では筆者本人と思われる人物が、日々の出来事をエッセイ風の文章で淡々と書き綴る。

言ってみれば「日記」だが、小説や詩のように読むこともできる不思議な味わいの一冊。恋愛の話でありつつ、仕事や人間関係のモヤモヤに対する「ハッ!」とするような言葉がところどころに散りばめられ、共感する人も多そうだ。

蒼井さんはどんな思いでこの本を書いたのだろう? そして「働くこと」をどんな風に考えているのか聞いてみようと思った。

蒼井ブルーさんの著作:『ピースフル権化』

「エッセイとは?」でググるところから始めました


ーー『ピースフル権化』面白く読ませてもらいました。他人の日記って、正直退屈しちゃうことが多いんですけど、最後まで読ませる力がありますね。かと言って力んでる感じが全然なくて、どこまでもサラッと脱力系というか(笑)。

蒼井:ありがとうございます。担当編集と「やりましょう」みたいな話をしたのが去年の春ぐらいで、1年近くこればっかりやってましたよね。でも読むと一気に読み終えてしまうみたいで。「書くのに1年かかったんです」って言ったら、「えっ、そんなに?」みたいになっちゃって(笑)。

日記形式で書いてるから、毎日のことのように読めてしまうかもしれないけど、実際はそんなに毎日毎日面白いことが起こるわけではなくて。実際には1年間受験勉強したぐらいの心の起伏が詰まってるんです。しんどかったですね(笑)。「もう、長かったなあ」っていう。

ーーサラッと読めるようにするために、色んな苦労や工夫をしてると思うんですけど、どんな風に書いていったのかな? と。蒼井さんの頭の中覗いてみたくて。

蒼井:そうですね。まず、いままでとはちょっと違う新しいことを取り入れたいっていうのがありました。「丸々1冊のエッセイ本、書きおろしでやりません?」っていうお話で、最初は打ち合わせを重ねて、結構そこで時間かかってるんですけど。

ーーあ、エッセイ本企画だったんですね? 

蒼井:はい。ひとつ3000文字くらいのエッセイで、それを50編みたいな。丸々1冊エッセイというのは初めてだったので、改めて「エッセイとは?」でググったりして(笑)。

ーーすごいところからのスタートですね(笑)。

蒼井:世の中にこれだけエッセイ本が溢れているということは、需要があるんだなということはよくわかったんです。で、担当の人も「やりましょう」って言ってくれてる。でも、どうやったら面白くなるのか? とにかく自信なかったですね。

あの、自分で言うのもあれなんですけど、僕、根がすごい真面目なんですよ。なので「エッセイ? エッセイ?」って、頭の中でずっと「エッセイとは?」を考え続けてしまって。本を読むのは好きだから、いろんなエッセイを読んできてはいるんですけど、やっぱり読む側と書く側は違いますから。

キャッチコピーや詩みたいな短い文章なら昔からよく書いているので、そういうのなら時間をかければ「やれそう」って思ったんですけど、何千字を何十編というのはちょっと…。そもそも「エッセイとは?」でググってるヤツが書くエッセイが面白くなるのかな? っていう(笑)。

ーーでも、書き始めてみた?

蒼井:そうなんです。「とりあえずやってみましょう」と。それで一球入魂というか、一篇一篇を映画の超大作撮るくらいの気持ちでやったんですけどね。「この1篇を書き終わったら死んでもいい」みたいな(笑)。

で、書いたひとつ目を担当に送ると「すごく面白いです!」みたいな反応があって。「蒼井さん、やれるじゃないですか!」みたいな。こっちはすでに相当消耗してるんですけど(笑)、それなりに手応えはありました。

でも、いま思えばそれがちょっとよくなくて。そのあとも何編も送っていって、1篇ずつを読む限りは面白いんですけど、1冊の本にするために並べると、なんかもったいないというか。「1+1がただの2になっちゃってる」みたいな感じがあったんです。

ーー1曲1曲は面白いけど、アルバムとしてまとまりがないみたいな?

蒼井:そうですね。どうすればよいか僕もわからなかったので、担当と話して手探りしながら進めていく中で、「一回エッセイと短文の中間というか、両方のいいとこどりをしたくらいの感じで、日々の出来事を書いていっていいですか?」と。そのあたりからやっとベースができ始めて。

いまこうやって話すと僕の冷静な提案に聞こえるかもしれないですけど、当時はもう、ほとんど弱音というか、泣き言みたいな感じでした。

淡々と過ぎゆく日々に笑いと涙を


ーーいや、それは生みの苦しみってもんじゃないかと。文章をサラッと読んでもらってクスッとさせるのは相当難しいことなので。その流れでもうちょっと褒めてみると、「新感覚の日記文学!」くらい言っていいんじゃないか?と。

蒼井:本当ですか! うれしいです。あの…もっと褒めてもらえると(笑)。買ってくださった方がSNSとかで「買いましたー」みたいな購入報告してくれるのもうれしいですけど、実際読んで「ここが好きでした」とか言ってもらえるのはありがたいです。

ーー本について具体的に質問していくと印象的なフレーズがいっぱいあって。例えば「僕も誰かの暇つぶしになりたい(p.98)」って言葉があるけど、蒼井さんは実際そうなんですか?

蒼井:自分の作るものをエンタメにしたいという思いは、すごく強くあるんですよね。全然知らない人に笑ってもらえたり、泣いてもらったり、それってものすごいことじゃないですか? 「笑いと涙」ってすごく大事なことだと思うので。

電車乗ってるときにスマホ開いたり、部屋でゴロゴロしながらテレビや映画を観たり、音楽流したりしますよね? そういうのって無くなっても死ぬわけじゃないけど、それがあることで生活が豊かになったり、彩りみたいなものが出てくる。自分もそういうものを作れたらうれしいなあってずっと思っていて、それをギュっと凝縮して「暇つぶしになりたい」って言い方になったんですけど。

ーー謙遜を笑いに変えつつ、さりげなく自己主張もする。そんな感じが言葉選びに出てますね。文章もリズムよく読ませる。短歌じゃないんですけど、全体に5・7・5・7・7みたいなノリがあるというか。

蒼井:そういうのは意識してますね。まさにいまおっしゃった短歌とかって、速読みたいに読んでいく人も、ゆっくり噛みしめて読んでいく人も、感じるテンポは同じだと思うんです。そのテンポって大事だと思うので、「こっちのほうが読んでてノリが出るな」みたいな風に、書き直したり違う表現に変えたり。

ーーかなり書き慣れた人の文章だと思うけど。

蒼井:1冊目の本のあとがきにも書いたんですけど、SNSが根付いてない頃から、短文やいわゆる詩のようなものを書いていて、ブログに1日1篇、詩を載せていってたんです。

で、徐々に話題になってコメントも増え、「書籍化して欲しいです!」みたいなことを言ってもらえるようになり、そこで少し調子に乗ってきて、「じゃあ、本にしてみよう!」と思って調べたら、現実は厳しいことがわかっていったんは諦めたんですけど、「いつか本出したいな」ってずっと思ってました。

蒼井ブルーさんの著作:左『僕の隣で勝手に幸せになってください』、中央『NAKUNA』、右『君を読む』

人間には「自分がどうしたい?」がわからないときがある


ーーいまや書くことも蒼井さんの仕事になってるわけですが、徐々に働き方の話を。『ピースフル権化』には仕事についての話も結構出てきますね。例えば「どうせ働くのなら、お金以外にも得られるものがある場所がいい。(p.79)」みたいなフレーズは気になった。

蒼井:実際にあったことなんですけど、職場のバイトの子がやめることになって、送別会のときに「こんな大変なバイトは初めてだったけど、めちゃくちゃ楽しかったです」みたいなこと言ったんです。なんだかうれしい気持ちになりましたね。人との出会いとか、お金以外にも得られるものがあったんだろうなあと。それでメモしてたんです。

僕、すごいメモ魔で、何か響いたり引っかかることがあったら、とりあえずメモを取ります。たくさんメモを取って、それをあとで文章化するときにまとめる作業をやるんですけど、メモの段階で骨組みまでできてることって滅多になくて、だいたいは断片的な言葉の羅列というか、パズルで言うとピースみたいなもので、それを後から「こうかな?」ってはめていくんです。

ーーそうやってメモを取るってことは、人をよく見てるってことだと思うんですけど観察好きですか。「公衆トイレで自分の息子に独り言言いながら用足してるおっさん」とか「牛丼屋でいきなり泣いてる若者」とか、結構リアリティあって。

蒼井:観察はすごい好きなんですけど…。なんか「人間観察が趣味です」とか言っちゃう人って、ちょっと痛く見えちゃうじゃないですか(笑)。

面白い人とか変な人がいたら、だれでも見ちゃいますし、実際見ちゃってるんですけど、それをわざわざ「好きです」とか「趣味です」とか言うのは、僕はちょっと嫌だなっていうのがあるんですよ。「ネタ探しで人間観察してます」なんて芸人さんとか小説家だったらカッコいいと思うんですけど、僕みたいな感じだと恥ずかしさもちょっとあって。

でも、意識して人を見ていると、結構周りで楽しかったり面白かったりすることが起こってますからね。電車の中とか、めちゃくちゃ面白いことが起こりがちで、スマホを開いたりしながらも聞き耳を立てたり(笑)。

ーー他人観察と同時に自分観察もすごいしてますよね?

蒼井:僕、たぶん根は真面目みたいなところもありつつ、それがいいように作用しているときもあれば、ウジウジになってしまうこともあるんですよね。なんかナヨナヨしてるなあって。そういうところはすごい自覚もあって。

終わったことを何回も引っ張り出してきて、また考え始めたり。「自分のなかで腑に落ちないと次に行けない!」みたいな。真面目ゆえの駄目さ。もしかしたら頑固さも、真面目から来るとこがあるかもしれないんですけど。

ーー頑固なんですか。

蒼井:そうですね。人のことを認めたり許したりは、自分で言ってしまうと長けてるほうだと思うんですけど、「自分vs自分」のことになると「自分で自分を許せない」みたいなところが結構あるかもしれないです。

ーー『ピースフル権化』で、途中から「悩み相談室」が出てくるのが面白かった。自分で自分にお手紙を書いて相談するっていう。あれは「自分vs自分」のシーンだったのか。

蒼井:不思議なんですけど、人間って自分で自分が何を考えているのかわかんないときってありますよね。人から「どうしたい?」って聞かれても、「いや、どうしたいんだろうなあオレ…」みたいな。

そういうとき「自分がどうしたいのか?」を、自分で自分に聞く作業って結構必要なんじゃないかと思うんです。そのために悩みを文字に書き起こすのは、ベタと言えばベタなんですけど、モヤモヤした気持ちがスッキリするというか、自分がどうしたいかがハッキリしてくるので。

ーーなるほど、こんな感じで話すとネタバレしていくので本の話はこの辺でやめときますが、新しい出発を感じさせるエンディングも良かった。主人公の気づきやちょっとした行動に共感できて。蒼井さんの描くエンタメは、スペクタクルではなく日常生活の冒険系ですね。

蒼井:エンタメって人間の弱さやカッコ悪さをどう出すかが大事だと思うんです。例えば人が目の前でコケたら、笑っちゃいけないとわかってても笑っちゃうじゃないですか。コケずにスタスタ歩いている人を見ても、何も面白くないんだけど。

ーーコケ方によっては「かわいそう」と思うしね。

蒼井:そうなんですよ。そういう話が笑いになったり、逆に泣けたりもして。さっきも言いましたけど、僕も昔は、自分で自分のことを細かいところまでは許せていなくて、弱さやカッコ悪さをいまいち出せてなかったんじゃないかと。ウジウジしている自分に向き合って許すことって大事なんじゃないかな? っていまなら言えるんですけどね。

聞き手:河尻亨一(シゴトゴト編集長)

(後編に続く)

Profile

蒼井ブルー(あおい・ぶるう)
大阪府生まれ。文筆家・写真家
写真家として活動していた2009年、Twitterにて日々のできごとや気づきを投稿し始める。ときに鋭く、ときにあたたかく、ときにユーモラスに綴られるそれは徐々に評判となり、2015年には初著書となるエッセイ『僕の隣で勝手に幸せになってください』(KADOKAWA)を刊行、ベストセラーになる。以降、書籍・雑誌コラム・広告コピーなど、文筆家としても活躍の場を広げている。
Twitterフォロワー数19万人超(2018年3月現在)。著書に『僕の隣で勝手に幸せになってください』、『NAKUNA』、『世界はふたりのものだと思いたいのでまずは君が僕のものになれ』(全てKADOKAWA)、『君を読む』(河出書房新社)などがある。
Twitter @blue_aoi
 
Interviewer

河尻亨一(かわじり・こういち)
銀河ライター/東北芸工大客員教授。雑誌「広告批評」在籍中に、多くのクリエイター、企業のキーパーソンにインタビューを行う。現在は実験型の編集レーベル「銀河ライター」を主宰し、取材・執筆からイベントのファシリテーション、企業コンテンツの企画制作なども。仕事旅行社ではキュレーターを務める。
ロングインタビュー: 2018年05月09日更新

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