連載「カメレオン女優・鈴木つく詩がゆく」。今回の対談相手は、哲学者の田代伶奈さんです。
前編では、田代さんが考え続けている「愛」の哲学に話がおよびました。田代さんが影響を受けたというのが、哲学者ヤスパースの「真のコミュニケーションは、愛しながらの戦いだ」という言葉。いったいどういうことなのでしょう?
「愛の哲学」や「哲学によって、自由になれる」など、まだまだ話が尽きない哲学女子トーク。後編をお届けします。
※前編はコチラ!
彼氏も家族も、みんな他者だからおもしろい。哲学者田代伶奈さんとの哲学女子トーク 前編
真のコミュニケーションは、愛しながらの戦いだ
鈴木つく詩さん(以下つく詩):愛しながらの戦い…。どういう意味なんですか?
田代伶奈さん(以下伶奈):普段のコミュニケーションって、簡単に共感しがちじゃないですか。女子会にありがちですけど、「本当にひどいよね」「うん、ひどいよねー」みたいな会話とか。実はあんまり相手が言っていることをわかっていないのに、みんなで共感し合う、っていう。
つく詩:うん、よくありますね。
伶奈:それって、楽だからなんですよね。本当にわかり合おうとしたら、めちゃめちゃ大変じゃないですか。さっき言ったみたいに、他者って一人ひとり異なるので、簡単には分かり合えない。だから、「あなたが言う『ひどい』って、どういうこと?」とか、問い合い続けなきゃいけなくて。それってもう、戦いなんですよね。言葉という武器で、どこまでも問い続ける戦い。
つく詩:「戦い」って言うと、すごく強い感じがするというか、口げんかみたいな感じもしますけど。
伶奈:だからこそ、“愛を持って”問い続けよう、みたいなことをヤスパースは言っていて。「問う」というのは相手を批判するという意味じゃなくて、「本当はどうなの?」とか、「それどう考えてるの?」とか、わからないことをどんどん明らかにしようとするという行為で、あくまでも相手を尊重することが前提にあるんです。だから、愛しながらの戦いだと。
つく詩:なるほど。それって技術が必要ですよね。相手を傷つけすぎないくらいの力加減とか。
伶奈:加減はむずかしいと思います、本当に。問い続けるのがいいのかというのもわからないときもあるし。だって、毎回戦っていたら疲れますよね。いきなり相手が一人で戦いはじめても、「いや、もう今日はいいよ。お酒呑んで歌おうぜ」みたいな日もあるじゃないですか(笑)。
つく詩:あはは! ある気がします(笑)。
伶奈:だから、ヤスパースが言う「真のコミュニケーション=愛しながらの戦い」は、「はい、今は哲学をする時間ですよ!」みたいなことをお互い理解した上で、ようやく始められるのかなって思います。哲学対話の場づくりでも、最初に「これから哲学対話しますよ」って、みんなで哲学対話モードに切り替えるのは、意識してやっているんです。
「生きる意味はあるのか」よりも大事な問い
つく詩:わたしが今演じている哲学女子の役が、すごく地味なイメージなんです。これはあくまで、わたしが自分で考えたイメージなんですけど、口数は少ないし、いつも下を向いてて、美容院とか行かないで、髪長いし、影は薄くて、姿勢も悪い女の子。哲学女子ってそういうイメージがあったのですけど、田代さん、すごく明るいですよね(笑)。
伶奈:はい(笑)。わたし、すごいポジティブな人間で、大学の哲学科にいたときも「伶奈みたいな人は珍しいね」みたいに言われてました。
つく詩:哲学って、「なぜ?」と考え続けることだと思うので、暗くなってしまうこともあるような気がしていたんです。田代さんは考え続けても、あまりネガティブにはならないですか?
伶奈:あまりならないかもしれない。暗い気持ちにならないためには、問いの分類ができるのも大事なのかなって思います。
つく詩:問いの分類っていうのは?
伶奈:たとえば、「生きる意味はあるのか」って問うことに意味があるのかな? って、個人的には思っていて。だって、もう生まれちゃったから生きるしかないじゃないですか。
つく詩:たしかにそうですよね。
伶奈:だから、「生きる意味はあるのか」って問うよりも、「どうしたら良く生きられるのか」とか「生きるに値する人生とはなにか」とか、ポジティブな問いを選んで、考えるほうがいいなって思います。
つく詩:ああ、なるほど。でも、そういう、「どうしたら良く生きられるのか」みたいな問いも、たぶん結論ってなかなか見えないですよね。それでも考え続けられるのは、どうしてなんですか?
伶奈:うーん…。やっぱり、「いつかはわかりたい」って気持ちがあるんでしょうね。たしかに考えれば考えるほど、答えって本当はすごく遠くにあって、死ぬまでわからないな、なんて思うんですけど。それでも、「昨日よりわかるようになった!」とか「考えたことによって少し生きやすくなった!」とか、ちょっとずつ進んでいる感じはあるんです。そんな感覚があるから、今も考え続けてるんじゃないかな。
哲学によって、自由になれる
伶奈:わたしも女優さんと話す機会はあまりないので、つく詩さんのお仕事がすごく気になります。
つく詩:ありがとうございます! 今日、田代さんのお話を聞いていて思ったのが、女優もすごく哲学をする仕事かもしれないって。
伶奈:そうなんですか?
つく詩:はい。哲学が「なぜ?」と考えることだとすると、女優って、いつも新しい役をもらうたびに「この人はなぜこういう性格になったんだろう」「なぜこういう行動をするんだろう」って、とことん考えるんですよ。それって哲学だったのかもしれないなぁって。
伶奈:なるほど! おもしろいなぁ。ちなみに、今演じている役はどんな役なんですか?
つく詩:大学生の女の子で、ずっと教室の端っこでひとりで本を読んでいるような、地味な子なんですけど、ある男の子に声をかけられたことがきっかけで恋に落ちて。それで、その男の子が哲学部に所属していたので、「入ってみようかな」って哲学部に通ううちに、哲学にどんどん興味を持つようになって、明るい子になっていくんです。
伶奈:恋によって変わるんだ。恋って哲学より偉大かもしれないですね、やっぱり(笑)。あと、今の話を聞いて思ったのが、その子の気持ちがちょっとわかるなって。
つく詩:え! ポジティブっておっしゃっていたのに意外です。どういうところがわかるなと?
伶奈:わたしたちって、「学校に行かなきゃいけない」「友達は多くなきゃいけない」「30歳になったら結婚するでしょ」とか、いろいろな「普通」にかこまれていて、そんな「普通」に馴染めなくて「自分は普通じゃないな」と思っていたりする人もいますよね。
つく詩:はい。
伶奈:わたしも自分をポジティブだって言ったけど、「自分は普通じゃないかもしれない」とか、「自分が考えていることが社会に認められていないかもしれない」とか、いろいろ思うことはあるんですよ。その役の子も、そんなふうに「普通」を気にしすぎちゃって、暗くなってるところがあるのかなぁ。
つく詩:あぁ、そうかもしれない。
伶奈:そんな人にとって、哲学はすごい救いになることがあるんです。「普通」を1回疑っていいんだよ、っていうのが哲学だから。たとえば、学校に行きにくい子も、「学校に行く必要があるのか」と問うていいわけです。
つく詩:そういうの、考える機会ってあまりないですね。考えちゃだめな気がするというか。
伶奈:そうなんです。「行く必要があるに決まってるだろ!」って言われそうですよね。でも哲学では、問うていいんですよ。それに、考えた結果「必要ない」という答えになっても別によくて。だから、哲学と出会うことで「普通」から自由になれて、明るくなれるというのは、すごくわかる。
つく詩:なるほどなぁ。その役の女の子のことを理解できた気がします。今回の役に限らず、一つの方法として、哲学により、自由になる事ができるんだな、と思いました。田代さんがやっている哲学対話も、まさにそんな自由になれる場なんですよね?
伶奈:そうだと思います。それに、今日した「愛とは?」みたいなお話も、まさに哲学対話。そう、いまわたしたち哲学対話してるんです。
つく詩:あっ、そうか! 取材のつもりが哲学対話になっていたんですね(笑)。でも、哲学対話ってすごく楽しくって、まだまだ話し足りないです。ぜひまたゆっくり、田代さんと哲学対話をしてみたいな。
伶奈:ぜひぜひ! これからも哲学対話の場をつくっていくので、ぜひまた今日の続きを話しましょう。
鈴木つく詩(すずき つくし)さんのプロフィール
女優。神奈川県横浜市出身。2017年スバル自動車「Your story with」でヒロインを務める。また、これまでも2006年日本テレビドラマ「マイボス☆マイヒーロー」で梅村のぞみ役を演じ、井上苑子「大切な君へ」、BLUE ENCOUNT「だいじょうぶ」のPVにも出演するなど、「カメレオン女優」を目指してテレビ、映画、舞台など幅広く活動中。2018年公開予定の映画「おみおくり」(高島礼子主演)にも出演。2017年ミスユニバースジャパン神奈川大会ファイナリスト(プリンセス賞受賞)。2018年5月より「劇場版 仮面ライダーアマゾンズ」ミナ役 出演。
取材・構成:山中康司(働き方編集者)+銀河ライター
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