「さぁ、みなさん。今から哲学者を演じてみてください!」
そう言われたら、どんな演技をしますか?
多くの方はなかなかそんな場面はないと思いますが、そうはいかないのが女優という仕事。連載「カメレオン女優・鈴木つく詩がゆく」の主人公、つく詩さんも、現在撮影中の映画で「哲学女子」を演じることになり、試行錯誤している最中です。
「哲学女子って、どんな人なんだろう?」
そんな疑問を持ったつく詩さんは、哲学者として活動する田代伶奈さんに話を聞きに行くことにしました。
田代伶奈さんは、上智大学の大学院で哲学を研究したのち、教育現場や企業のイベント、地域のイベントなど、全国各地で「哲学対話」を実践しています。
いったい、哲学対話とは? また、田代さんの哲学との関わり方とは? 2時間では語りつくせないほど盛り上がった「哲学女子トーク」の様子を、前編後編に分けてお届けします。
※後編はコチラ!
愛しながらの戦いって、どういうこと? 哲学者田代伶奈さんとの哲学女子トーク 後編
みんなで一緒に考える哲学
鈴木つく詩さん(以下つく詩):哲学って、ひとりで分厚い本をじっと読んでいるような、暗いイメージがあったんです。でも、田代さんは哲学を通してみんなでお話する場をつくっていますよね。
田代伶奈さん(以下伶奈):はい。「哲学対話」ですね。
つく詩:それがすごくおもしろいなって。「哲学対話」って、どんな場なんですか?
伶奈:あるテーマについて、みんなで一緒に問い、考え、対話をする場です。たとえばわたしは、自由大学という表参道にある市民の学びの場で、「自由」「自分」「社会」「働くこと」「生きること」といった身近なテーマについて、5回にわたって哲学対話をする講座をつくったりしています。
つく詩:やっぱり参加者は年配の方が多いんですか?
伶奈:いや、そんなことないですよ。自由大学の講座も若い方が多いし、小中高でも、授業の一環で哲学対話をやっています。この前は高校生と哲学対話をする機会があって、「何を考えたい?」と聞いたら「恋と愛の違い!」って。「ドキドキするかしないかでしょ」「いや、愛だってドキドキするじゃん」みたいに対話していくんです。かわいいですよね(笑)。
つく詩:あはは(笑)。なんだかそういうお話を聞いてると、わたしが哲学に持っていた暗いイメージとすごく違うなって思います。
伶奈:哲学ってふたつの側面があると思っていて。ひとつは、難しそうな本を読む哲学研究。この概念とこの概念にどう整合性があるかとか、「自由」という概念は中世ではこう考えられてきたけど、近代になったらこう変わった…とかいうことを、文献を読んで論文を書く、みたいな。
つく詩:わたしが哲学に対して持っていたのは、そんな感じです。なんだかむずかしそうな…。
伶奈:わたしも哲学研究科にいたんですけど、「哲学書は原典で読め」って言われますからね。むずかしいですよ(笑)。
つく詩:ええ、大変!(笑)
伶奈:でも、哲学にはふたつめの側面があって。それは、“問いを立ててのみんなで一緒に考える”ということ。なかなかわかり合えない、いろんな価値観を持った人たちと、わかり合うことを目指して語り合うんです。
つく詩:語り合うことが哲学なんですか?
伶奈:そうなんです。古代ギリシャの哲学者ソクラテスは、街の広場に出ていって「愛とは?」「正義とは?」と、市民と対話をしていたんですよ。だから、もともと哲学って語り合うことだったんですよね。わたしは哲学研究より、そっちの哲学をやりたいんですよ。
つく詩:難しそうな本を読む哲学と、かなり違いますよね、それって。
伶奈:けっこう違います。哲学研究だと、どれだけえらい哲学者の概念や理論を知っているかが大事ですけど、哲学対話では「哲学者の名前を使っちゃいけない」というルールを伝えます。「カントはこう言ってたし!」とか言うと、読んだことない人が困っちゃうんですよね。
つく詩:へー、おもしろい!
伶奈:「いや、カントさんもそう考えたかもしれないけど、カントさんと同じようにみんなそれぞれ自分の頭で考えられるんだから、自分で考えましょうよ!」って、哲学対話の場ではみなさんに伝えるんです。
つく詩:なるほど。それなら哲学にくわしくなくても参加しやすいですね。わたしも参加してみたいな。
彼氏も、家族も、地球の裏側の人と同じくらいわかり合えない
つく詩:そもそも田代さんはなにがきっかけで、哲学に関心を持ったんですか?
伶奈:中学生とか高校生の頃から、「愛」ってなんなのかがずっと気になっていたんです。大学の卒論も、大学院で書いた修論も、テーマは「愛」でしたし。
つく詩:「愛」、ですか?
伶奈:はい。なんでかって、人を好きになった経験はあるし、「愛」が素晴らしいものであることもわかるんだけど、じゃあ「『愛する』ってなんだろう」と聞かれても、わからなかったんですよね。「なんで一人の人しか好きになっちゃいけないんだろう」とか、「地球の裏の子どもたちを支援するのは愛なのか」とか、ずーっと考えてたんです。
つく詩:「愛」についてはわたしもすごく考えます。いま演じている役も、恋愛をしている役なので。
伶奈:たとえば初めて誰かと付き合ってみたら、「一番近い人だと思ってた恋人なのに、こんなにわかり合えないんだ…」ってショックを受ける経験とか、ありますよね。
つく詩:ああ、わかります。「なんでこの人、こんなことするんだろう?」みたいな違和感。
伶奈:でも、それが私にとっておもしろいことでもあって。
つく詩:おもしろい?
伶奈:なんでかというと、よく「普通はこうだよね」って、自分たちにとっての「普通」をつくることで、コミュニティの内と外を分けるじゃないですか。たとえば彼氏は内で、地球の裏側の人は外、みたいに、ついつい自分と同じ枠のなかに他者を含めようとしちゃうんです。
でも「彼氏も、家族も、親友も、地球の裏側の人と同じくらい遠い、わかり合えない存在で、みんな他者なんだ!」ということに気付いたんですよ、恋愛を通して。それがすごくおもしろいなって。
つく詩:なんか、自分以外みんな他者だ、って気付いて、さびしいじゃなくおもしろい、と思えるのがすごいなって思います。
伶奈:他者をみんなひとくくりにしちゃうことに違和感があるんですよね、わたし。一人ひとり異なる他者を「普通はこう」というふうにくくっちゃうのを、哲学は「普通」を疑うことでそれを打破しようとするんです。「普通」はなくて、他者はわかり合えない存在であると。その上で、じゃあわかり合えない他者とどう関わるかという「愛」の問題に、わたしはすごく興味があるんです。
つく詩:「愛」ってなんなんだろう…。すごく気になります。
伶奈:わたしも答えは出ていないんです。何をもって「愛している」というのかもわからないし。LINEの頻度なのか、会う頻度なのか。あと、ウキウキ度とか?(笑)。
つく詩:ウキウキ度(笑)。あとはお互い思いやれるかとか、考えている時間とか、かな。うーん…。
伶奈:ちなみに、わたしの研究していたヤスパースという哲学者は、「真のコミュニケーションは、愛しながらの戦いだ」という、めっちゃかっこいい名言を残してます。
つく詩:愛しながらの戦い…。どういう意味なんですか?
(
後編につづく)
鈴木つく詩(すずき つくし)さんのプロフィール
女優。神奈川県横浜市出身。2017年スバル自動車「Your story with」でヒロインを務める。また、これまでも2006年日本テレビドラマ「マイボス☆マイヒーロー」で梅村のぞみ役を演じ、井上苑子「大切な君へ」、BLUE ENCOUNT「だいじょうぶ」のPVにも出演するなど、「カメレオン女優」を目指してテレビ、映画、舞台など幅広く活動中。2018年公開予定の映画「おみおくり」(高島礼子主演)にも出演。2017年ミスユニバースジャパン神奈川大会ファイナリスト(プリンセス賞受賞)。2018年5月より「劇場版 仮面ライダーアマゾンズ」ミナ役 出演。
取材・構成:山中康司(働き方編集者)+銀河ライター
メルマガ登録いただくといち早く更新情報をお伝えします。
メルマガも読む
LINE@はじめました!