2017年08月30日更新

クッキー屋サクちゃんの「よむ仕事ラジオ」vol.1 ゲスト:浅生鴨さん(前編)

はじめまして。シングルマザーのクッキー屋 サクちゃんと申します。現在、どういうわけか渋谷でクッキー屋さんを経営していますが、世の中にはそれはもうたくさんの仕事があり、わたしはそのほとんどについて知りません。

人生を振り返っても、自分と仕事をどうやってつなげればいいのか、大人は教えてくれませんでした。わたしはそのことをだいぶ根に持っています。なので、大人になってから、いろんな仕事の人をつかまえては「その仕事、いつ知ったの?」と問い詰めています。

この『よむ仕事ラジオ』では、その一部をみなさんにお見せします。どこかでだれかが自分と仕事をつなげるヒントを見つけられるといいなと思います。第1回目のゲストは、仕事旅行でも連載を持ち、私がこの連載を始めるきっかけをくれた作家の浅生鴨さんです。

第1回 ゲスト:浅生 鴨さん


サク:ただいま、鴨さん!

鴨:おかえり、サクちゃん…。

サク:えーと、まず今回のこの記事についてちょっと説明しますね。この前、鴨さんが仕事旅行社の編集長の河尻さんを紹介してくれたので、すぐ会いに行ってお話してたら、「サクちゃんと鴨さんが話して、それを記事にしようよ」ということなったんですよ。なぜか。

鴨:うん…なんでそうなるんだろう…。

サク:よむラジオ形式で、会話をまるごと記事にします。あ、もうこれはじまってますよ。

鴨:そもそもさ、仕事旅行で連載した時も、「ちょっとやだなー」と思いながら気がついたらやることになってたし、連載も3回のはずがなぜか結局6回になってたんだよね。で、連載が終わったときに「またなんかお願いしますよ」って言われたから、それはやばいなーと思って、代わりにサクちゃんを送り込んだのに、ブーメランみたいにかえってきたよ!

サク:すぐ返ってきましたね。送り込んだ荷物と一緒に返ってきた(笑)。

鴨:不思議ー!

サク:鴨さんは、なぜかそういう羽目になることが多いですよね。仕事から逃げようとすると、それが仕事になるパターン。

鴨:むしろ倍になって帰ってくるんだよ…。

サク:謎ですねえ。

鴨:ほんとうに働くの嫌いなんですけどねー。

サク:仕事旅行の連載も、それを6回に渡って書いたんですもんね「働きたくない」って。

鴨:そうだよ。ぼくは働かないで、海外ドラマ見て、ベースの練習して、本読んで暮らしたいよ。

自立したいわたし、夢中になりたい鴨さん


サク:鴨さんは、はじめて働いたのは、いつですか?

鴨:15歳かな。先輩の実家が八百屋だったんだけど、年末の大売出しに駆り出されて、年末にみかんを売ってお金をもらったのがはじめてかな。部活の先輩だから逆らえなかったんだよね。それがスタート。

サク:なんかすでに鴨さんらしいな。

鴨:ラグビーばっかりやってたので、時間もないし、お金がほしいと思ってなかったなー。

サク:へえ、そうなんですねー。じゃあ、社会にでてお仕事をしたのはいつですか?



鴨:大学に入って1年目の夏前に、気がついたら会社員になってたんだよね。

サク:入学してすぐすぎませんか。

鴨:なんか募集してたゲーム会社に入って、朝9時から夜中まで働いてた。でも、働いてるっていう感じはなかったな。遊んでるみたいな。

サク:ゲームがすきだったんですか?

鴨:いや、別に普通。

サク:ふーん。

鴨:なんかね、ゲームそのものより、1個1個の難問を解決していく面白さがあったな。ちょっと無理めなことをうまくやれたときの楽しさみたいなのが。働いてるっていう意識がないから、つらいとか思ったことなくて、むしろ帰りたくない、ずっとやってたいって思ってた。お金ももらえるしラッキー!みたいなね。

サク:へえー、それすごくいい仕事のスタートですね。

鴨:その会社には何度も入ったり辞めたりしてるんだけど、その合間に、友達の手伝いで演劇の裏方やったり、なんかいろんなこともしたけど、あんまり覚えてないんだよね。

サク:たぶん、呼ばれたから行ったんでしょうねえ。

鴨:そうなんだよ。「最近どうしてる?来ない?」「じゃあ行きまーす」みたいな。

サク:呼ばれたら行っちゃう。

鴨:今思うと、そのゲーム会社は働き方でいうとすごくブラックなんだよ。3ヶ月くらい家に帰らないみたいな。でもはじめてだから、働くってそういうことだって、社会人って大変なんだなって思ってた。実はそうじゃないっていうのは、後々わかったんだよ。ひとりで先に就職しちゃったから、周りのひとと比較もできなかったしね。

サク:うん、わかるのは後からですよね。わたしは業界ごと(個人店の製菓業界)ブラックだから、周りの友達と比較してもみんなブラックだったなー。

鴨:そのときは疑問にも思わなかったけどね。

もう働きたいなんて言わないよぜったい、って思ったよ


サク:鴨さんは、はじめから仕事とお金はつながってないんですね。わたしはどちらかというとはじめから仕事=お金だったんですよ。お金がほしいっていうか、自立したい=お金が必要 だったから、お金がほしいから働くっていう意識だったんですよ。わたし、小4からひとり暮らしをしたかったので。高校生の時に「最短距離で仕事につきたい」って思った時に、調理師か、製菓か、美容師か、というくらいしか知らなかったんですよ。三択。やばいですよね。

鴨:そっか、仕事直結っていうとそうだよね。

サク:でも、お金がほしくて働きたいと思ってるのに、その仕事をするとどれくらいお金がもらえるかは知らなかったんですよね。高校生のときにアルバイトをして、月に10万円稼ぐのがすごく大変だって知ってたから、初任給12万円とか、わーすごいたくさんもらえる!って思ってたんですよ。

鴨:あー、それはぼくもそうだったなー。起きてる時間ずっと仕事してるから、時間がなくて使わないし、他の仕事だとどれくらいお給料もらえてるか、知らなかった。

サク:わたし、なんなら30過ぎるまで知らなかった。さすがに社会的にお菓子屋さんはお給料が低いんだなということは気がついていましたけど。

鴨:ぼくは友達が演劇やってる人とかだから、もっとお金がないんだよ(笑)。大卒の後輩と話していて「うち給料安いっすよね」と言われたときに、やっといろんなことに気がついた。おや、どうやらトリックがあるぞ、と。

サク:インターネットもなかったですしね。

鴨:だからと言って、調べてわかりたいっていう熱い思いもなかったな。

サク:お菓子屋さんだと、当時、会社でアルバイトさんを時給¥800とかで雇っていたんだけど、社員の自分の時給をふと計算したら¥300とかで、あれ?って。バイトしたほうがいいのかな?って思った。会社員で、お金はもらえないけどものすごく時間を費やすことによって、その先に何が待っているかは、誰も教えてくれなかったんですよね。アルバイトさんは社員の半分の時間で同じ金額を稼いでる。なぜ?って、お金と時間の対価について疑問に思った瞬間でしたね。

鴨:ぼくはそもそもお金に興味がないんだけど、だから、うっかり演劇とかやってお金をもらうどころか金を払う側に回ったりしてた。

サク:なんか鴨さんは、お金とは関係なく、ずっと目の前にやることがありますよね。いつも何かを頼まれて、解決することがあったら毎回やっちゃう。

鴨:うん、ぼくはおもしろいことができるかどうかだけだったからなー。

サク:わたしは、自立のために仕事をはじめたんだけど、その矢先に父が入院したりして、ずっと自立もできないし、お金もない状態だったんですよ。そうすると、仕事はガマンしてやることで、自分にいいことが一個もないって思うようになっちゃった。早く仕事がしたかったはずなのに、仕事についてどんどんネガティブになっていったんですよね。

鴨:お金のために働こうと思ったことない気がするなー。電話が止まって、電気が止まって、水道まで止まったときは、さすがに働かなきゃなって思ったけど、働こうと思って文房具屋さんに応募して面接を受けたら、落ちたんですよ。

サク:わはは、やっぱり自分から行くとダメなんだ、呼ばれないと。

鴨:もう働きたいなんて言わないよぜったい、って思ったよ。

うーん、ガマンをお金に変えるっていう考えの人、多いよね


サク:わたしは働きたいと思って入った仕事の入り口で出会ったのが「いやなもの」だったから、それと決別するのに時間がかかったなー。さらにその先でシングルマザーになったので、今度は時間がないんですよ。それまではたくさん働かなきゃいけないのがしんどかったんだけど、今度は使える時間がないから、どうやってお金をもらえばいいかわかんなかったんですよね。そのときに、わたしがいないと困る仕事を会社内で勝手につくって、なおかつ必ず18時には帰りますってっ言って、なかば無理やり居場所をつくったんです。

鴨:へえー。

サク:それはよかったんだけど、使える時間がすくないので、まだ好きなことをしようとはちょっとも思えない。32歳で独立してお店(クッキー屋)をはじめて、2年くらい経ったときに、ようやく時間とお金が両方できたんですけど、そのときに「さあ何しよっかな」って思った。楽しいことしていいって思ったのはそのときが人生ではじめて。仕事をはじめてからずいぶん時間がかかりましたね。

鴨:そうだったんだ。

サク:わたしマジメだから、目の前のことはちゃんとやるので、そのときそのときで仕事は楽しいんですよ。でも、会社員のときもクッキー屋をはじめるときも、「時間とお金をつくるためにこうするしかしょうがない」という思いがいつもどこかにあったな。

鴨:うーん、ガマンをお金に変えるっていう考えの人、多いよね。本当に関係ない気がするんだよね。

サク:うん、関係ないですよね。

鴨:一番いいのは何もせずにお金がもらえること。好きなことやってるとお金がもらえる。家で海外ドラマ見て本読んでたらお金がもらえるんだったら、よろこんでやるのに、その仕組みがないんですよね、今のところ。

サク:ベーシックインカム的な?鴨さんは、最低限生きられるなら働かない派ですか?

鴨:うん、ぜったい働かない。

サク:それでいうと、わたしはベーシックインカムを自分で作った感じですね。自分が時間を使わなくてもお金が入る仕組みをつくった。で、できた時間で何をしようっていう状況をつくったんですよ。

鴨:ああ、そういうことだね。

イラスト:あーちん

続きはコチラ→クッキー屋サクちゃんの「よむ仕事ラジオ」vol.2 ゲスト:浅生鴨さん(後編)

ゲストプロフィール

浅生鴨(あそう・かも)
1971年神戸市生まれ。早稲田大学除籍。大学在学中より大手ゲーム会社、レコード会社などに勤務し、企画開発やディレクターなどを担当する。その後、IT、イベント、広告、デザイン、放送など様々な業種を経て、NHKで番組を制作。その傍ら広報ツイートを担当し、2012年に『中の人などいない @NHK広報のツイートはなぜユルい?』を刊行。現在はNHKを退職し、主に執筆活動に注力している。2016年長編小説『アグニオン』を上梓。2017年9月短編集『猫たちの色メガネ』上梓予定。

執筆者プロフィール

桜林 直子(さくらばやし・なおこ)
1978年東京生まれ。専門学校卒業後、都内洋菓子店に勤務。販売、企画、人事、経理、商品管理、広報、営業などの経験を経て、2011年に独立し「SAC about cookies」開店。店舗のアドバイザーとしても活動。シングルマザーで、娘のあーちんは「ほぼ日刊イトイ新聞」で9歳より連載をもつイラストレーター。
ロングインタビュー: 2017年08月30日更新

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