2017年08月28日更新

創業350年・金魚の卸問屋『金魚坂』の女将さん【後編】私、あんまり苦労しないのね。みんなが助けてくれるから

東京都文京区本郷にある創業350年の金魚・錦鯉の卸問屋「金魚坂」。7代目の女将・吉田智子(よしだ・ともこ)さんに会いに行く。

インタビュー前編では、昔と今の金魚の「在り方」や「飼い方」の違いについてのお話、金魚を扱う問屋での仕事について伺いました。

20年前(平成9年)に先代のご主人(吉田晴亮さん)を亡くされたあと、7代目を継いだ吉田さん。そののち、2000年(平成12年)に卸問屋の隣の池だった場所に喫茶店を開きます。

なぜ、卸問屋と喫茶店だったのでしょう? 仕事や商売を長ーく続けるための秘訣とは? いろんなお話聞かせてくださいました。

吉田智子さん

なんか人のためになんないかしらって。そのぐらいですよ


――嫁がれる前は金魚に関係ない生活だったのでしょうか。

吉田:そうなんですよ。金魚屋にお嫁に来てね、こんなに金魚って種類がたくさんあるんだと思って、びっくりしちゃったんです。

――喫茶店を開こうと思ったのはなぜでしょう?

吉田:喫茶店は、うちの主人がね、亡くなったあとで開いたの。問屋ってねぇ、誰も入ってこないほうがいいの。大きい声でおもてで商売しているから、話し声が近所に聞こえて悪いんですよ。一日中、金魚やっててうるさいから。

それだから、誰も入ってこなかった。だけど、主人が亡くなって、私、はたと考えてね、金魚こんなに種類があって、飼えばこんなに楽しいのに、みなさん意外と金魚の楽しみを知らないんじゃないか? って。

だってそれじゃなかったら、こんなに歴史が続かないでしょ。着物の柄にもなったり、おもちゃにもなってたり、美術品にもなったりしてね、長く続いてるのに知られていないのは、もったいないと。

で、文京区に金魚の問屋ってうち一軒しかないじゃないですか。少し外れればありますけど、都内の真ん中にあるのはうちしかないから、まあ、せいぜい遊びに来て、お茶でも飲んで、金魚の楽しみをね、味わってみてくださいっていうんで、喫茶店を開いたんですよ。なんか、人のためになんないかしらって。そのぐらいですよ。

――喫茶店の経験があったわけではなくて?

吉田:ないの、ないの、ないの。それがね、お友達同士で、「あんた何できる?」って言ったら、「私、コーヒー入れられる」「私、日本料理ができる」って。じゃあ、みんなできるものを持ち寄りでやろうって。

――ウェブサイトを拝見したとき、珈琲だけでなく、懐石料理や葉巻もあって、いろいろあるなあ!と思いました。お友達それぞれの得意分野を活かしてたんですね。

吉田:そう。趣味でやってるんですよ。みんながね、金魚見てくれれば、ここ(喫茶店)は集会所でいいんですよ。音楽会もやるんですから。ピアノ置いてね。ここで弾いて。小さいコンサートなんかもやってもらって。落語もやるの。

――開店のとき、大変じゃなかったですか?

吉田:大変だったんですけど、みなさんね、協力してくださって。(市川)團十郎さんまで花くれちゃったんです(笑)。亡くなりましたけどね。

――なぜ多くの人たちに協力してもらえるのか気になります。金魚には人をつなげる力もあるんでしょうか。

吉田:そうねえ、金魚って、風水的には幸せを呼ぶんですよ。お店にもいいし、玄関先に金魚置くと、金運ができるなんて言ってうちの事務所でも置いてるのよ。だけど、売っちゃうからダメなんです(笑)。売っちゃうから逃げられちゃう金運に。

愛情運もあるんです。縁結びの運、持ってるんですって。いろいろ恵まれたいなぁと思うんだけど、この年まで恵まれないから、もうダメだろう、と(笑)。

仕事も普段も着物のほうが楽なの


――ご主人が亡くなって、吉田さんご自身が7代目になったんですね?

吉田:そう。それで、ここ(喫茶店)は2000年からやってるの。池を一つ犠牲にして、「みなさんの憩いの場所にしようよ!」とか言って。画家さんも、利用してくれて。深堀さん(美術作家・深堀隆介さん)もそうよ。深堀さんも、金魚、うちで好きになったの。毎日来てたんですよ、学生時代。

――正直、続けるの大変で辞めてしまいたいなと思ったときありますか?

吉田:いや、私、あんまり苦労しないからね(笑)。周りの人たちがいつも助けてくださるから。

――それは、いつも笑顔だからじゃないでしょうか?

吉田:そうかしらね(笑)。まあ。長く続いて、文京区行けば、金魚がある、と皆さん思ってくださるので。風流なところあるじゃないですか、文京区って。古めかしいところが。だから、金魚がわりと合ってるんじゃない?

――町に映えますね。

吉田:うん。私、その点では文京区って好きなの。学生の頃から、「いいなあ~三四郎池は~」とか、「あの辺散歩しようか~」とか言って、友達同士で歩いたりして。

でも、ここ一度丸焼けになったんですって。うちの主人が中学の頃、空襲があって。持って逃げたものが、お母さんが荷造りしておいたものじゃなくて、ハッと気づいたら、筒っぽとシャベル一本持ってたんだって。それで、その筒開けたら、入ってたのは金魚の番付表。いまも、ここに飾ってあるんですけど。

――すごいですね。焼けるっていうときに、自分の荷物でもなく、番付表を!

吉田:ねえ、怖かったでしょうに。まあ、そのおかげであれが助かって。当時の木版刷りだからね、なかなか今の刷り方とはちょっと違うんですけど。

明治22年、4代目吉田新之助氏が勧進元となっておこなわれた金魚の品評会での番付表

――女将さんは今はお店にどのくらい出られてるんでしょう?

吉田:毎日、出てます、主人が亡くなってからは。あの人もとうとうね、毎日出るようになっちゃったって、言われているんじゃないですか(笑)。

出ると喫茶店も、問屋さんも、エサ屋にも行きます。私できないから、みんなにやってもらっちゃってますけどね。お友達ももう、19、20の頃からの知り合いなの。だから、気兼ねはまったくなくて、家の人同様なんですよ。

――お着物は毎日着られてるんですか。

吉田:毎日着るの。着物育ちですから。金魚屋もね、このまま上っ張り着てやってたから。洋服はくたびれちゃうのよ。着なれてないから。着物のほうが楽ですよ。考えないで着られて。ずっと着てると、着物のほうが合ってくれるんですよ、顔や年代にも。もう年とったから、こうなってやろうって、着物のほうが馴染んでくれる(笑)。

釣堀り。取材時も遊んでいるお客さんがいました。

憎らしい金魚でも、毎日見てると可愛い顔になってくるのは不思議ね


――今、こちらには何種類くらいの金魚がいるんですか?

吉田:そうね、40種類くらいいるんじゃないかな。もう少しいるかもしれないけど。今、暑いから、あんまり入れて混ませると可哀想だから。なるべく、必要な分だけ取ってって言うけど、毎日、新しいのが着いてますから。

熊本からも、今、また来てるんですよ。熊本、地震で可哀想でしたよね。でも、熊本はいい金魚が出るんです。オランダ(品種)とか、大きいのも作れて。だってね、金魚すくいのなかに熊本の金魚少し入れてあげると、それだけで人気が出るのよ。

――夏祭りの縁日でイメージするものって言ったら、現代でも、金魚すくいは頭に浮かびます。

吉田:そうですよね。でも、夏だけのものじゃないの。金魚ってね、四季通じて飼ってやると、金魚がちゃんと分かってくれるから。金魚って神経質で、嫌なときはね、くたびれちゃうの。尾っぽを垂らして、可哀想な格好をしちゃうんですよ。喜んでる時は元気に尾を持ち上げて泳ぐの。かわいいですよ。みんな顔が違うし。

私、金魚にこんな感情があるって思わなかったんです。で、結婚してから金魚見たから、「金魚ってすごいな」「こんなにいっぱいどうするんだろうな」って思ってるうちに、自分が売りたくない金魚が出てきちゃって(笑)。それでもね、やっぱり、そういうのから売れちゃうのよ。お目が高いわねぇ~。

――そういうときは、寂しくなったりするんですか?

吉田:そうなんですよ。でも、いい金魚からやっぱり飼ってもらわないと悪いから。でも、一番憎らしい金魚を飼っても、それが可愛い顔になってくる(笑)。ほんとに。スタイルも悪くて、「嫌な金魚ね」と思うんですけど毎日見てるうちにね、どんな金魚よりいい感じがしちゃって。「これも可愛いですよ」とか言っちゃうの。この悪い顔が一番魅力的だ!目が離れすぎてるから可愛いんだと思って。そういうのは、不思議ね。

ランチュウ

見てると楽しいなっていう方が増えれば、金魚はもっともっと続くと思う


――これからこの金魚坂をどうして行きたいという、お気持ちはありますか?

吉田:そうね、やっぱり私ね、喫茶店で、食べていただいたりっていうのも有り難いんですけど、まずは金魚見て楽しかったなって気持ちでね、帰ってくださるのが一番うれしい。

だからお客さんが来るとね、「金魚見てね」って言うんです。あんまり言うもんですからね。今度オウムでも飼って、「金魚見て、金魚見て」って言ってもらおうかしら(笑)。金魚が、こんなに種類あるって知らない方が多すぎるから。金魚には種類がたくさんあって、見てると楽しいなっていう方が増えれば、私、金魚は、もっともっと続くと思う。続かなくちゃいけないです。

1500年前に一回入ってきて、それからちょっと衰退して、それから正式に入ってきたのは、500年前ですか。だから入ったり出たりはしていますけれど、最初は盆魚(※)だったんですよ。金魚にはその尊さってのもあるから、飼う人は幸せになれるんじゃないかななんて思ったりして。
※地位の高い人が飼う魚

私も、金魚の顔見ようと思って、店から金魚うちまで持ってく(笑)。ご飯食べるときも目の前に置いておくんです、落ち込んだときなんかは。ああ、やっぱり、金魚が助けてくれたとかね。だから、やっぱりね、金魚って、可愛がってくれる人が多いほうが良いんじゃないかと思って。

だからお金かけないでね、可愛がってもらいたいの。商売になんないわね、これじゃあ(笑)。

金魚坂 創業350年 金魚・錦鯉の卸問屋
WEBサイト http://www.kingyozaka.com/

記事・写真:河口茜(シゴトゴト編集部)
ロングインタビュー: 2017年08月28日更新

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