2017年07月24日更新

アート集団「studio cooca」の関根幹司さんに聞く(後編)ーー“なっちゃった”仕事とこの施設。それを支えるしなやかな強さ

「なんで福祉の仕事をやっているの?」

そう言われると、少し言葉に詰まってしまいます。私は、人と接することが苦手です。福祉の仕事をしていて、つくづく「向いてないなぁ」とため息をつきたくなることの連続です。それでも、今日も福祉の仕事をしています。そして、その傍ら色々な人に会いに行き、お話を伺って記事を書いています。

前回、この記事コーナーでハンディキャップを抱える人のアート活動集団studio cooca(スタジオクーカ)の施設長、関根幹司さんのインタビューをしました。

(前編)アート集団「studio COOCA」の関根幹司さんに聞くー「僕もまだわかってません。この施設が何をすべきか。障害者とは何者なのか?」

関根さんは障害者というステレオタイプに縛られず、目の前の人と向き合い、その人の力を引き出す場づくりに尽力している方です。その話を聞くたびに、私はいつの間にか、笑ったり感動して涙ぐんだりしていました。

今回は、関根さんご自身の働き方を中心に引き続きお話を伺います。いまの仕事や施設の運営の形は、そうしようと強く求めてそうなったのではなく、日々生きる中、仕事を続ける中で「(こう)なっちゃった」と話す関根さん。

ひとつの仕事を続けていくためには、そういった"しなやかさ"も必要なのかもしれません。この記事では関根さんのお話を伺いながら「変化していく強さ」について考えてみます。

聞き手・構成:森本しおり ※写真提供:studio COOCA



絵とは「会う」ことで「糸を織りなす」こと


それはstudio coocaが出来る前のお話。関根さんは「工房 絵」という施設を作りました。その名前には、関根さんの「想い」が込められていました。

「絵」っていう字を書くんですよ。当時から「絵」という名前がついているので、アートとかを中心にやる施設だと思われていましたけど、それは「会う」っていう意味でつけたんです「絵」と「会」は同義語なんです。字としてかっこいい字と施設らしくない音っていうのを探しましたね。(関根さん)

「絵」の字源を調べてみると、「色糸をあわせて刺繍の模様をつくること。」¹とあります。糸と糸が「会う」から来ていたみたいです。工房絵はその名の通り、色々な人や機会との出会いがあり今の形になっていました。関根さんは、その中の一つについて教えてくれました。

¹字源ネット:http://jigen.net/kanji/32362

面白い出会いがあったんです。横浜在住の服飾デザイナーなんですけどね。その人が、横浜そごう百貨店の9階に神奈川県の福祉施設の紹介のコーナーを見て「施設ってなんでつまんないものを作っているんだろう?」と思ったらしいんです。

で、「自分はデザイナーだからデザインも出来るし、流通もわかる。材料の仕入れや販売のアドバイスができるんじゃないか?」と、県に相談に行って、うちを紹介されたそうです。「おもしろいアートみたいなことをやっているところがありますよ」と。その人がうちへ来て、絵や作品を見て「面白い!僕が営業します。」って言ってくれたんです。(関根さん)


プロのデザイナーが営業をしてくれる!それはとても羨ましい話です。確かに福祉の仕事をしていても、デザイン、流通、営業はわかりません。商品を作っても売る先に困っている施設は多いのです。そのデザイナーの方は、今までに無かった形での商品展開に繋げてくれたようです。

彼の事務所は代官山にありました。うちの作品やら商品やらをトランクいっぱいに持っていてくれて、事務所の近隣の雑貨屋さんとか回ってくれました。それで、段ボールはがして作った作品が、「OKURA」というお店の目に留まって置いてくれることになったんです。母体は「ハリウッドランチマーケット」というお店で、当時土日は入場規制、番号札を配らないと入れない程人気がありました。

OKURAは、「障害を持った人達も雇えるお店にしよう」という基本コンセプトで、エレベーター付きの3階の建物を建てたそうです。ただ、実際どう雇っていいのかわからない。そこに、そのデザイナーが飛び込みで売り込みに行ったんです。「障害者施設でこんなものを作っています」と。

そのお店の内装や風合いと、うちの商品はすごくマッチしました。それで「障害者を雇うことは当面できない。でも、別の形の支援が商品展開という形でできるかもしれない」ということで、うちの商品を扱ってくれました。そこのお客の量も半端じゃなかったけど、接客もすごかったですね。うちの作品を手に取ろうものなら一時間くらいダーッと工房絵の説明をする、みたいな。(関根さん)




何百人もの"励ます人たち"が施設を応援してくれた


これをただの"幸運"で片付けていいのでしょうか? それだけではないでしょう。「工房 絵」では人気店の風合いとマッチする程、クォリティの高い商品を既に作っていたのです。だからこそ、チャンスが来た時にタイミングよく掴むことが出来たのでしょう。OKURAの店員さんの熱心な接客は、後に「工房 絵」の作家たちを励ます人達を連れて来てくれることになります。関根さんは話を続けてくれました。

東京っていう場所って面白くて、東京人じゃないんですよね。地方人の集まりなんです。ある日ね、九州かどこかから電話がかかってきたんです。「今度東京に行くんだけれど、おたくのアトリエにうかがってよろしいですか」と。その人は、以前東京に行った時に作品を見たらしいんですね。

これ、他施設であまりない現象だと思います。その人は「○○さんっていう作家おられますよね。その作家の方に会いたいのと、その作家の方の他の作品が見たいです。」と言ってくれました。それはその人だけじゃなくて、沖縄から北海道まで年間何百人って来てくれました。東京ってそういう人達が集まってきては、また地方に帰るって場所なんでしょうね。

最初は、本人達も渋々絵を描いていました。他にやることもないので、親の反対を得ながらね。それが売れたり、周りから「かっこいい」という評価も得て、かつ、全国から作家ご指名でお客さんが来るようになった。そうすると、本人達もやっとその気になってきました。最初、数人で始まったのが、一人二人と増えていって、いつしか工房絵はアートの施設みたいになっちゃったの。

そう、ここまでやって来たけど、なっちゃったの。すごい意思の力でしたのではなくて。(関根さん)


「なっちゃった」という言葉がさらっと出てきたのが驚きました。仕事や事業と言えば、「なりたい」ものや高い目標目指して頑張るものというイメージもありますが、関根さんの言葉からはそういった暑苦しい根性論のような働き方観がみじんも感じられません。

淡々と続けているうちに"こうなってしまった”、そんな働き方もあると知りました。

想定外を楽しめる余裕が"自然体の働き方"につながる




もちろん、施設がいまの状態になるまでには、たくさんのハードな出来事もあったはず。「なっちゃった」という言葉の裏側には言葉にできない何かが秘められていると思います。



しかし、そういった"自然体の働き方"を実践するためには、やはり「会う」ということが大きいのではないでしょうか? 
指名して会いに来てくれた人に励まされて、描く。それはものすごくシンプルな仕事の形に思えます。お話を聞いていると関根さんの周りには応援をしてくれるファンのような人達の存在がいたる箇所で見えました。

トランクいっぱいに商品をつめて営業をしてくれたデザイナーさん、お客さんに一時間もかけて良さを語る店員さん、その出会いを地方に持ち帰りまた会いに来るお客さん。ここには載せきれませんでしたが、関根さん自身最初の就職は、ボランティア先から誘われたことがきっかけです。関根さんは、出会いを次へと繋げる力があるようです。



もし、これが自分だったらこれほど出会いを活かせただろうか? そんな疑問がわきました。きっと、出来なかったでしょう。私は目の前のことに対応しきれないことが重なると「福祉の仕事に向いていない」と感じてしまいます。想定外の方向から提案や質問をされると戸惑ってしまいます。臨機応変な対応が苦手なのです。それを楽しんだり活かしたりする余裕は私にありませんでした。

関根さんは、自分の芯を持ちながらも、変化していく力のある人なのでしょう。前編のインタビューの中で、関根さんも利用者の人を支援する壁に直面していました。そこで自分の中の常識を疑い、職員の人と議論を重ねて折り合いのつく道を探っていました。今回、デザイナーや全国からの見学者といった人達や機会と「会う」ことをオープンに受け入れていたことがわかりました。そこからは、未知のものや予定外の出来事に対応していく力が見えました。

大変なことを語る時も飄々としていて、どこか楽しそうだった関根さん。「なっちゃった」という表現から、しなやかに変化していく強さが読み取れます。その関根さんの口から語られるエピソードはどれも、どこへ行くのかわからない冒険小説のようでした。聞いている私は関根さんのストーリーを通して、この仕事の魅力を再発見していきました。それは、新鮮な驚きと懐かしさが混ざったものでした。なんだか少しだけ、明日が楽しみに思えてくる。そんな香りのするお話でした。

ロングインタビュー: 2017年07月24日更新

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