2017年08月02日更新

人と自然を緑の"縁"でつなぐ Botanical 56(ボタニカル・ゴロー)/天職ハンター・輝くシゴトを追えvol.3【後編】

輝くシゴトを追いかける、天職ハンター。前編につづき、植物のある暮らしを提案するユニット『Botanical 56(ボタニカル・ゴロー)』を追う。

【前編】はこちら。

祖父の代から続く造園業「グリーンプラザ大和園」を継いだ谷野功明(やとの のりあき)さん。

時代のニーズに応えるため、家業に自分の色を加えた。造園職人を中心とするユニット『Botanical56』を立ち上げ、暮らしに植物を取り入れた豊かなライフスタイルを提案している。

挑戦出来る手段、新たな人と繋がる方法を見つけ、シゴトに好きをつくった。それは、家業を天職化したと言えないだろうか。



神奈川県横浜市。たまプラーザ駅から徒歩十数分、住宅街にあるマンションの一角に開いたユニット『Botanical 56(ボタニカル・ゴロー)』のアンテナショップ。功明さんと共に、奥さんのありささんが中心になってお店を運営している。

お店では300鉢以上の植物や雑貨販売の他、オリジナル鉢植えづくりも出来る。店内にはカウンター席やソファが設けられ、緑に囲まれた空間で過ごす魅力、豊かさを感じることが可能だ。

引き続き、谷野功明さん・ありささん夫妻にお話を伺った。



「食育」のように「植育」もあるはず


ーー『Botanical 56(ボタニカル・ゴロー)』のアンテナショップでは、緑のある暮らし、魅力が体験出来る訳ですね。

ありさ
:はい、是非体験しに来てください。また、お店は出来るだけ開放して、近所の方々に交流の場として使って頂いています。レンタルスペースとして貸し出しもしていますから、イベント利用でもママ会でも使って頂けたらと思います。

ーー交流の場としては、イベントなども企画されています。

ありさ
:はい。植物セミナーやワークショップ。ヨガ教室や個展など、主催や共催させて頂きながら開催しています。お店の裏手にはレンタル用の熱帯植物を管理している温室があり、そちらのスペースなども活用しています。

ーーイベントは、お子さんが参加出来るものも多くありますね?

ありさ
:子供が植木にお水をあげたり植物に触れるって、生き物に触れるってことなんですが。でも、教えないと植物が生きていることも理解していないし。

「食育」のように「植育」ってあると思うんです。植物は、動物と違って反応がないから、自然の声に耳を傾ける感性や習慣を持つようになるんです。今の人に足りない感覚な気がしていて。子供のうちにその感覚を養うって凄く大事かなって、娘を見ていても思うんです。



受け継がれたリアカースピリッツ。祖父、五郎との約束。父の姿


ーー造園をカジュアルダウン。緑のある暮らしを身近に提案するユニット『Botanical 56(ボタニカル・ゴロー)』。ボタニカルは“植物の”という意味で解るのですが、ゴローって?

功明
:ユニット名の由来ですね。それは僕からお答えします。ゴローの名前は、僕の祖父「五郎(ごろう)」から付けました。

もともと植物に関する仕事は、祖父が始めたんです。戦後の爪痕がまだ残る昭和26年、五郎はリヤカー1台で貸し植木業を始めました。

当時は、この店がある、たまプラーザから渋谷まで約20kmの道のりを植木を乗せて売り歩いていたようです。身内ながら凄いと思ってしまう。そのハングリー精神というか、リアカースピリッツ。それが現在、僕らの本業、グリーンプラザ大和園の起こりですから、もう創業約70年近くになります。

ーー初代、五郎さんへ思い入れが強かった?

功明
:子供の頃、祖父と話していて家業の造園業を継ぐか聞かれた時「やんないよー」って答えていたんです。2代目の親父も無理に継げとは言わなかったですし。

でもある日、親父が後継ぎのことで祖父にこっぴどく怒られてるのを見てしまったんですよ。祖父、五郎の植物に対する思い入れが強いことは解っていましたが、そんな光景を見て、内心僕はずっと反発していたんですよね。

ところが、高校2年の時、祖父が他界してしまって。今でも忘れないんですが。葬儀の時、小さくなった祖父を見た瞬間「俺、やるわ…」って。造園業を継ぐって決意したんですよね。反発心は、裏を返せば尊敬の念だったのかもしれません。

ーーそこから造園職人を目指したんでしょうか。

功明
:いや、結局大学は経済学部に進学したりして。祖父の五郎に誓った想いも、やっぱり薄れたりブレたりした時期も正直ありました。それでも、想いが消えることはなくて。就活が始まった時、植物を扱う日比谷花壇さんとか、さりげなく受験したりして。

最終的には、同じく造園業をしている叔父の会社で修行させて貰うことになったんです。親父の下だと甘えてしまいそうで。

叔父の下、基礎を覚えたところで、よくやく親父と一緒に仕事をするようになって。公園の植え込みをつくったり、ランドスケープデザインのような大規模な仕事から、個人宅のお庭のお手入れ、時にはドブさらいまで。多くの現場で、怒られ、失敗しながら経験を積んで行きました。



ーー造園職人として着実に成長していった訳ですね。

功明
:そう上手くは行かなくて。仕事を始めて2~3年した頃でした。まさかの親父が突然倒れてしまって。幸い命は助かったのですが、仕事に復帰することは出来ず。24~5歳の若造だった僕が、3代目として急に社長を継ぐことになりました。

今考えれば、生意気でした。若かったし、怖かったし。こうなりたい、こうありたいって肩肘張って。当然、抱えていた職人から反感を食らって、みんな辞められてしまった。腕だってまだまだ未熟ですから、お得意さんもどんどん離れてしまった。

ーー若いし、別の道に進むことも出来きたはず。辞めてしまおうと思わなかった? なぜ逃げなかったんですか。

功明
:辞めるとか、逃げるとかは考えなかったですね。どうするかしか頭になかった。明日の現場はまだあるし。必死でした。技術と知識がつけば何とかなるって。どうにかなるさって。どこか能天気なのかな。現場で頑張っていれば、いつかは職人仲間も、お客様も帰ってくるって信じてた。

ーー何もないところからの再スタート、正にリアカースピリッツですね。お祖父さんとの約束が支えに?

功明
:祖父が、見守ってくれているって思いはいつもある。頑張っていれば、見ていてくれるって。突然社長を継いでから十数年、どうにかやってきて、ようやく本当に自分のやりたかった事を形に出来る時が来ました。

Photo:田口直也


ーーリアカースピリッツを込めて、お祖父さんの名前「五郎」の名前を持ったユニットを立ち上げた。

功明
:『Botanical 56(ボタニカル・ゴロー)』いい名前でしょう? 造園をもっと身近にする活動をやりたいって思いはずっとあったんです。それこそ20代の頃から。でも、勇気もお金もなかった。近年になって、ようやく本業もしっかり回り始めて。結婚を機に一歩踏み出すと決めて。妻に相談したら、びっくりされましたけれど、意外と反応が良くて(笑)。背中を押してもらった感じかな。

本業のかたわらツリーハウスを学ぶ日々


ーー奥様の応援があった。では、ありささん。旦那さんから新しいユニットの立ち上げを聞いた時は、どう思いました?

ありさ
:出来るかなぁ?と思いました。造園の本業があって。しかも結婚して直ぐの話だったので。でもあまりにも熱心だったので。話を聞いてるうちに、私もやってみたいなって気持ちに段々なって。そうしたら、当時は事務所だったこの場所の改装をいきなり始めてしまって、お店に(笑)

結局、2013年の9月。改装を終え、拠点となるお店が出来たことで、ユニット『Botanical 56』として発信を始めました。

ーーユニット立ち上げ時から、功明さんは水を得た魚のように動き回る訳ですね。

ありさ
:そうなんですよ。ユニットの立ち上げと並行して、ツリーハウスビルダーの養成講座に通い出して。本業もあるのにですよ。

功明:お客様も世代交代してニーズも変わってきています。まして、新しいユニットでカジュアルな案件をお受けしたり、プロデュースするようになれば、小屋や古材を使ったものなど、遊び心のある仕事が求められますから。


ーー剪定ばさみを、インパクトドライバーに持ち替えて。ツリーハウスクリエイター小林 崇さんが主催するビルダー養成講座へ。そこで、新たな出会いが待っていた訳ですね。

功明
:今後、このユニットを更に展開する上で欠かせないスタッフとの出会いです。現在『Botanical 56』のディレクターを務めて貰っている三輪 努です。皆からMinmin(ミンミン)と呼ばれています。

Minmin(ミンミン):よろしくどうぞ! 谷野との出会いは、ツリーハウスビルダー養成講座でした。当時私は講座運営のサポートスタッフとして参加していました。彼が講座を卒業した頃、私も丁度独立しフリーランスになりました。

これまで私自身、人の魅力や縁を感じて仕事をすることが多く、現在もクリエイターやプロジェクトのサポートをしています。谷野と交流を続ける中、彼の想いや仕事に共感して、依頼を受け今回このユニットに参加させて貰うことになりました。


交流の中から生まれる成長の芽


ーーでは、谷野功明・ありさ夫妻に、ディレクターのMinminさんを加えてお話しを伺います。『Botanical 56(ボタニカル・ゴロー)』の今後の展開について、お聞かせください。

Minmin
:ここのお店は、あくまでアンテナショップ。待ちの姿勢でいても、情報の波に埋もれてしまう。表に出て多くの人々と交流し、まずは存在を知って欲しいと思っています。その為に交流の機会や、人との繋がりを出来るだけ多くつくるのが、私の役割だと思っています。

功明:先日もMinminのサポートで、鎌倉の材木座テラスにイベント出店させて頂きました。また翌週には日本最大級のビーチマケット、OCEAN PEOPLES(オーシャン・ピープルズ)へ出店と、積極的に交流に出始めています。

Minmin:手前味噌になってしまうけど、谷野やユニットに参加する職人達の技術、ありさのセンスっていうのは確かなものだと思うんです。多くの人の繋がり・交流の中で、持っている力を精一杯発揮して、柔軟に成長して欲しい。

それこそ植物みたいに。幹さえしっかりしていれば、環境に応じて、太陽を求め柔軟に枝葉を伸ばし成長するように。

ーー明確な目標みたいなものは設定しないということでしょうか?

Minmin
:そうだね。色々先のことを考えるって大切なんだけど、例えば1年後に向け目標を掲げる。でも、その1年間に色んな出会いがあるわけです。目標を固め過ぎていると、目標に絡まないものを、どんどんそぎ落としてしまう。でも、その落としたものこそ重要だったり、次への大きな可能性を含んでいることがあるから。



ーー交流の中から生まれる、成長の芽を大切に育てていくといった感覚?

功明
:そうですね。これまでも、造園職人達はお客様に応える事で成長してきました。交流を通して、多くの人々の暮らし方を見つめ、その中で『Botanical 56』がどんな提案、応えが出来るかを探っていきたいと思っています。ただの植物ショップではなくて、造園職人が中心にいるユニット、という強みを生かしたい。

ありさ:本業もあって、子育てをしながらの活動。毎日悩みながら、いっぱいいっぱいで。それでも、今までにない人との繋がりが出来るのが嬉しいです。このユニットが、植物を通してみなさんの暮らしにどんな提案が出来るのか。成長の芽を大切に育てながら、頑張って行きたいと思っています。

功明:多くの災害に見舞われ、自然に対峙することばかり取り上げられるけれど。人と一緒で、相手と距離を取るだけではなく、愛して身近にいることで、初めて解ることがある。植物を暮らしに取り入れることで改めて気づく。僕らは偉大な自然に生かされているって。これからも、そんな想いを一人でも多くお伝え出来たら良いなって思っています。


造園職人を中心とするユニット『Botanical56』を立ち上げたことで、家業に自分の色を加えた功明さん。挑戦出来る手段、新たな人と繋がる方法を見つけ、シゴトに好きをつくって、家業を天職化した。

これは、家業に限らないのではないだろうか。自分の仕事に好きをつくることが出来れば、きっと天職化出来るはず。

必要なのは、情熱と行動力。そこに少しの遊び心があれば。


Botanical 56(ボタニカル・ゴロー)
WEB http://www.botanical56.com
Facebook https://www.facebook.com/botanical56.jp
Instagram https://www.instagram.com/botanical56


記事:木村一貴(編集・ライター・ランナー)

【この連載のバックナンバー】
★天職ハンター ・輝くシゴトを追えvol.1/ウルトラライトをDIYするクリエイター 大越智哉さん
★天職ハンター ・輝くシゴトを追えvol.2/アクセサリー界の“天然記念物”を発見 タカハシレナさん

ロングインタビュー: 2017年08月02日更新

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