植物も育たない環境で、自分(筆者)は生活しているんですか? って話。
最近、小さな鉢植えを買った。なんだろう、気持ちに余裕のある暮らしがしたいと思って。観葉植物として育てやすいガジュマルの仲間、フィカス・バッキニオイデスを一鉢。つる性で、葉っぱがなんとも愛らしい。週に数回水を与えるだけでOK…のはずだった。
しかし梅雨に入ると、葉が少しずつ元気を失い始め。インターネットで調べて、栄養剤や日当たりも工夫したけれど、努力むなしく枯らしてしまった。申し訳ない…。
申し訳ない。植物にそんな気持ちを抱いたのは意外だった。忘れがちだけれど、植物は生きている。一緒に暮らすうちに、友達、家族みたいに「いってきます」とか挨拶するようになったりしていて。
植物が心地良いように、部屋の風通しを良くしたり、毎朝早めに起きて水やり、今日の天気を気にしたり、季節の変化に目を向けたり。そうして整える環境は、実は人間自身の暮らしやすさ、心身の健康に繋がるのかもしれない。
そんな植物と暮らす豊かさがあるのなら、専門家の話を聞いてみたい。輝くシゴトがそこにあるはず! 今回は、植物のある暮らしを提案するユニット『Botanical 56(ボタニカル・ゴロー)』を追った。
祖父の代から続く造園業を継いだ谷野功明(やとの のりあき)さんは、職人の経験・知識を生かし、植物を取り入れた豊かなライフスタイルを提案している。時代のニーズに応えるため、既存の造園イメージを変える、新たなユニットを立ち上げた。
神奈川県横浜市。たまプラーザ駅から暫く歩くと、そこは閑静な住宅街。看板を頼りに通りを曲がると、1件のマンションにたどり着いた。駐車場の奥、緑で囲まれたエントランスの一角に扉が見える。こんな所にお店が?
迎え入れてくれたのは『Botanical 56(ボタニカル・ゴロー)』の代表、谷野功明さん・ありささん夫妻だ。早速お話を伺った。
造園をカジュアルダウンする
ーー住宅街にお店を構えていて、お客さん来ますか?いきなりすみません。
功明:そうですね(笑)この店舗は、『Botanical 56(ボタニカル・ゴロー)』のアンテナショップなんです。ここで大きな利益を出したいと思っている訳ではないんです、今は。ただ、お客さんは結構多く来て頂けています。珍しい植物も扱っているので、インターネットで調べて遠くから来店されたり。
僕らの本業は別にありまして。「グリーンプラザ大和園」という会社を運営しています。植木のレンタルや販売、植物を使った展示・イベントの装飾、そして造園を主な事業としています。『Botanical 56』は、グリーンプラザ大和園が新たに立ち上げた、造園職人を中心とするユニットで、植物のある暮らしをもっと身近に提案したいと考えています。
ーー失礼いたしました!しかし、植物レンタルや造園の本業がありながら、どうして似たようなコンセプトで造園職人がユニットを立ち上げたのですか?
功明:そこが重要なんです。造園ってどんなイメージがあります?
ーー昔ながらの広い日本のお庭で、職人さんが剪定したり、垣根を整えたり…
功明:そうなんですよね…造園って、なにか敷居が高いイメージがあって。だから今、造園をカジュアルダウンしたいって思うんです。もっと身近に、今のライフスタイルに合わせた形に変えて行きたいんです。
これまで僕ら造園士が求められ、力を注いできたのは、職人として技術を高めることだったんです。例えば、一級造園技能士の資格を取得して、お客様のお庭で腕を発揮したり。落とした枝が、翌年どうなるか見当をつけて美しく剪定したり。でもそれでは、僕らがお付き合い出来るのは、昔ながらのお庭を持った、特定層のお客様に限られてしまう。
今、ライフスタイルは大きく変わってきました。特に都市部は。広いお庭も、竹を使った重厚な垣根も随分少なくなってきました。でも、人々が植物から遠ざかったかといえば、そうではないんですよね。多肉植物が流行ったり、ボタニカルって単語が一般的に使われるようになったり。むしろ、植物を、緑を生活に取り入れたいというニーズが高まっていると思うんです。
それならば、僕ら造園職人達も変わらなければいけない。
僕らは、これまで養ってきた植物に関する経験や知識が豊富にあります。誰にも負けないくらい。その経験・知識を使って、もっと気軽に、もっと楽しく、もっと身近に植物のある暮らしを提案したい。若い世代から、都市部で生活する方々にも。その応えが『Botanical 56』なんです。
ーーなるほど。造園職人の皆さんが、より幅広くお客様と繋がることで、植物のある暮らしを身近に提案出来るようになるんですね。そのために、ユニット『Botanical 56』を立ち上げた。では、具体的には、どんな提案が出来ますか?
功明:鉢植え1個から、お庭まで承ります。新築を建てるから、庭先から家の中まで植物を使ってトータルデザインをご提案といった実績があります。
家業を"天職"にするために
ーーインテリアからお庭まで、まさに植物のオールラウンダーですね!
では、ユニットの拠点・アンテナショップである、このお店からは、どんな提案をしていますか?
功明:この店は、『Botanical 56』のアンテナショップとして販売はもちろん、情報発信や、植物のある暮らしの体験など、妻のありさが中心になって展開しています。家には4歳になる娘がいるんですが、ライフスタイルを提案するには、女性目線、母親目線も大事だと思っていて。
ーーそれでは、ありささん。こちらのお店は、どんな商品やコンテンツがありますか?
ありさ:見えるものは全て売り物です。店内には300鉢以上の植物をご用意しています。ポピュラーな多肉植物やエアープラントから、少しマニアックな種類まで。また植物と相性の良い雑貨も扱っています。ポプリやドライフラワー。貴重なものとしては、Candle JUNE(キャンドル・ジュン)さんのロウソクなども扱っています。
Photo:田口直也
ありさ:また、鉢植え1個から、カスタムオーダーも承ります。お洋服と同じで、自分にぴったりのものは愛着も湧きますし、何より気持ちが通じるんです。同じ種類の植物でも個体によって個性も様々。ちょっとブサイクな葉の付き方とかが、案外可愛く感じたりするんです。
ピンっとくる植物をお選び頂き、鉢を決めます。さらに土も作ります。普通は植物に合わせて土を作ろうと思うと、大量購入が必要なんですね。でも当店は、それぞれの植物に合った土を、必要な分量だけ、その場でブレンドできるのでご負担が少なくて済みます。仕上げの化粧砂利やオーナメントなども豊富に揃えています。
夫や職人達が、ご購入後のお手入れや、困った時のアドバイスもさせて頂きます。
ーー植物レンタル・造園で使う多種多様な植物や資材があるからこそ出来る、自由なカスタマイズ提案ですね。本職の方から、本物を安価にお裾分けしてもらえる感があって、凄く良いですね。アフターサービスも万全。
決めた。次の鉢植えは『Botanical56』のアンテナショップに来て自分でつくろう。
Photo:田口直也
『Botanical56(ボタニカル・ゴロー)』に家業を天職化するヒントを見つけた気がした。
お話しを伺ってみると、代表の谷野功明さんは、祖父の代から続く造園業を継いだ造園職人だった。家業の場合、先代達が積み上げてきたものを、簡単には変えられない。変わらないことが価値だったりするからだ。
しかし、時に現状維持は後退の始まりともなりかねない。
先代が築いた価値だけでは生活して行けない。積み上げてきたものは、先代達が時代や時勢に合わせ、試行錯誤しながら創り上げてきた結果だ。同じことを繰り返すばかりでは、時代のニーズから取り残され、色あせやがて衰退していく。
造園職人を中心とするユニット『Botanical56』を立ち上げたことで、家業に自分の色を加えた功明さん。挑戦出来る手段、新たな人と繋がる方法を見つけ、シゴトに「好き」をつくった。それは、家業を天職化したと言えないだろうか。
では、一体どんな風に家業を天職化していったのか? これから、どんな展開をしていくのか? 次回その辺りをもう少し詳しく伺ってみることにしよう。
【後編】はコチラ→
人と自然を緑の"縁"でつなぐ Botanical 56
記事:木村一貴(編集・ライター・ランナー)
【この連載のバックナンバー】
★天職ハンター ・輝くシゴトを追えvol.1/ウルトラライトをDIYするクリエイター 大越智哉さん
★天職ハンター ・輝くシゴトを追えvol.2/アクセサリー界の“天然記念物”を発見 タカハシレナさん
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