2017年05月10日更新

仕事で煮詰まったときに読みたい名著『思考の整理学』。ときには「寝させる」ことも必要だ

『思考の整理学』という本を読んでいる。文学者・外山滋比古(とやま・しげひこ)氏の著書で、「考える」ことがテーマの本。

出版は1983年と少し古いが、これまで200万部以上出ている不朽のベストセラーとされていることから、読んだことがある方もいるかもしれない。本書には「考える」ということを「グライダーと飛行機」に分けて説明する有名な一節がある。

グライダー的な「思考」と飛行機的な「思考」はどう違うのだろう? 大まかであるが本書を参考に解説すると以下のようになる。

・グライダー:エンジンのない飛行機で引っ張られて離陸する。教師や本に引っ張ってもらい受動的に学習すること。暗記や記憶がメインの力でインプットした情報を必要に応じて整理したりアウトプットする。

・飛行機:自らものごとを発見・発明する力。新しい文化を創造するのに不可欠な力。


本書によれば、人はグライダー能力と飛行機能力を併せ持っている。もちろんグライダー能力がなければ基本的な知識すら得ることはできない。だけど記憶や再生といったグライダー能力は人間よりもコンピューターの方が抜群に高い。グライダー能力が高く飛行機能力が低いとコンピューターに仕事を奪われますよ…とドキッとすることが書かれている。しかも約34年前に発売された本にだ。

そこで知りたくなるのは、グライダー兼飛行機人間になるにはどうすればいいか? ということである。この本は先に挙げた対比を含め、著者である外山氏の考える方法やアイディアを発展させるコツが書かれている。

つまり、外山氏の思考の整理法がぎっしり詰まっているのだが、「日々の考え事や悩み事を解決するヒントになる部分も多いな」と思いちょっと紹介したい。

煮えないナベから目を逸らす時間も必要だ


例えば『寝させる』という章。たいていの問題は答えが出るまでに時間がかかるものだ。だが、人はつい解決策を焦り思考が混乱してしまうこともある。そのときは、しばらくは放っておく時間も必要だと著者は言う。

”見つめるナベは煮えない”ということわざも紹介される。「早く煮えないか、早く煮えないか」とたえずナベのフタをとっていては、いつまでたっても煮えない。あまり注意しすぎては、かえって結果がよろしくないということだろう。よく「煮詰まる」とも言うが、これはさらに考えすぎて、ナベの中で思考がぐちゃぐちゃになっている状態なのかもしれない。

「あまり考えつめては、問題の方がひっこんでしまう。出るべき芽も出られない」(『思考の整理学』p.38~39より)

この文を読んで、私は会社員時代の自分を思い出した。当時の私は事務職をしており営業担当やお客さんの要望に応えるにはどうしよう…といった業務上の悩みから職場の人間関係、今後もこの仕事を続けていくのかなぁ、といったキャリアの問題など様々な悩みがあった。

そして問題の本質が分からなくなり、なんとなくユウウツな気分になったりもして、とにかく問題をこじらせていた。本書でいうところの「ナベを見つめすぎて」の状況におちいっていたように感じる。

悩みや問題があると早く解決してスッキリしたくて問題に集中してしまい、視野が狭くなっていた。でもそれは問題の種類によっては傷口をずっといじるような行為ではないだろうか、と今は思う。ただでさえ問題を抱えていて憂鬱な気分なのに嫌なことを考え続け溜息が増える、悪循環だ。ちょっと他に目を向ければ傷口に良い薬が見つかるかもしれないし、自然とかさぶたになるかもしれない。

だけど当時の私は傷口をいじるように悩んでばかりいた。こんなことを書くのは恥ずかしいが、ちょっとしたことで胃の調子が悪くなり胃薬ばっか飲んでいた。ある時もう限界だー、やってられない!と思って仕事をサボったことがある(ごめんなさい)。映画を観たり、昼間の街中をぶらぶらしたりしたような気がする。

いい大人が何をしてるんだって思うかもしれないけど、その時の私には強制的にでもナベから目を逸らす時間が必要だった。1日会社を休んで問題が解決したわけではないが傷口の応急処置にはなったと思うし、このあたりから時には問題から逃げてもいいんだと思えるようになった。いずれ目を向けなければいけない問題でも現状が辛かったら思いっきり目を逸らして逃げてもいい、「問題と距離をおくことも時には必要」ということを身をもって知った。

「努力をすれば、どんなことでも成就するように考えるのは思い上がりである」


この章の最後には、次のような一節もあった。私と同じように「ナベを見つめすぎている」方への参考になるかもしれないと思い、引用してみたい。

「なにごともむやみと急いではいけない。人間には意思の力だけではどうにもならないことがある。それは時間が自然のうちに、意識を超えたところで、おちつくところへおちつかせてくれるのである。努力をすれば、どんなことでも成就するように考えるのは思い上がりである。努力しても、できないことがある。それには、時間をかけるしか手がない。幸運は寝て待つのが賢明である。ときとして、一夜漬けのようにさっとでき上がることのあれば、何十年という沈潜ののちに、はじめて、形をととのえるということもある」(『思考の整理学』p.40~41)


ちなみに著者の外山滋比古氏は現在御年93歳(2017年)。昨年ある新聞に掲載されていたインタビュー記事によると、いまでも年に10冊も本を出されているという。すさまじい仕事ぶりだが、ひょっとして……ご本人による「思考の整理」術が、時間をかけてじっくりと、しかも精力的に働き続けることに生かされているのかもしれない。

ただ、本書を読んでひとつ思ったのは「ナベを寝させる」からと言って、それはまったく何もしないでいいワケではないだろう、ということ。そのあいだにも、ナベの中ではいろんな素材が煮えているのだ。

風まかせに思えるグライダーでも、それに乗る人は風を計算しながら機体を操っている。その力がないと私たちは飛べない。シェフやパイロットのように「時」を見計らって適切なタイミングで動くことができる。それが仕事の本当のスキルというものではないだろうか。

(参考記事)
★インタビュー「思考の整理学」200万部超え 忘れることを恐れない 英文学者・外山滋比古氏(毎日新聞 2016年7月30日より)

記事:船橋亜美(シゴトゴト編集見習い)

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