10月上旬、ものづくりの一大イベントが行われました。今年で4年目を迎える「燕三条 工場の祭典」(新潟県)。4日間にわたり約100の企業がKOUBAを開放して見学者を受け入れる、日本最大級のオープンファクトリーイベントです。
イベントに編集部の島田がインターンとして参加、その模様を取材してきました。「ものづくりのファンでなくとも楽しめる!」工場の祭典を2回にわたってレポートします。
燕三条が金物の町になったワケ
燕三条といえば、全国屈指の金属加工産地。
ノーベル賞授賞式の晩餐会やデンマーク王室でも使用されるカトラリー(食卓用のナイフ、フォーク、スプーン)などキッチン用品のほか、世界に名だたる名品を生み出す「ものづくりのまち」です。
今年は78社の工場に加えて、農園や果樹園が「耕場」として13社、地元産品を購入できるショップなどが「購場」として5社参加。出展企業数は前年の約1.5倍となり、これまでにない規模での開催となりました。
私は燕市へのUIJターン支援や情報発信などを行う
「東京つばめいと(燕市地域振興課)」主催のインターンシップに参加。県内外から大学生ら14名が集まり、1泊2日でグループごとに会場を見学して回ります。
燕市職員の方の案内でまず訪れたのは、カトラリーを生産する
小林工業株式会社(LUCKY WOOD)。
ショールームに並んだカトラリー
金色、銀色に輝くカトラリーの数々…柄(え)には貝や花をモチーフとする装飾がついたものも。
その種類の多さには圧倒されますが、完成品だけでなく、こういった金属加工品がどのように生み出されるのか? その製造プロセスを見ることができるのが工場見学の醍醐味です。
工場に入りまず目に入ってきたのは、大きく音を立てる見たことのない機械。ここでプレスして製品の形を作っていきます。
スプーンをプレスする機械
成型前のスチール板には「18-8」などの番号が振られています。これはステンレスに含まれるニッケルとクロムの割合を示しているとの説明がありました。この割合によって、口に入れたときの鉄っぽさや色味が変わってくるそうです。
上下に回転させながらプレスして、金属をうすく伸ばす機械もありました。加工前と加工後のスプーンでこんなに違います。
プレス前(右)と後(左)のスプーン
研磨など仕上げの作業風景も見学させていただきました。話には聞いたことがありましたが、こうやってひとつひとつ作られている様を実際に見ると、良いものを作るためには相当な手間暇がかかっているんだという当たり前のことがリアルにわかってきます。
研磨の作業
案内してくださった方からは、燕三条の金物についてこんな説明も。
「この地域で金物が盛んになった理由は主に2つあります。まずステンレスを板に加工する技術を持つ卸問屋があったこと。もうひとつは、たとえ型が壊れて修理できなくても同じ型が作れるよう、型の元になる型を保管していたこと。そのことで高品質な金物を、長年にわたって生産することができるようになりました」
積み上げられたカトラリーの型
その後、昼食をはさんで訪れたのは、電子基板や独自のLED技術による照明を手がける
株式会社ワイテック。
こちらではLEDライトや電子パーツでのロボット作りを体験できるとあって、親子連れを中心に賑わっていました。
体験コーナーの様子
夜は作業着のパフォーマンスショー「作業着ランウェイ」を見るなど初日から盛りだくさんのメニューです(ショーについては後編記事で)。ひとつの町に様々な工場があり、それぞれの技術を生かしたものづくりが行われていることが実感できる1日でした。
ユルいようで一体感があるイベント
2日目は農家にお邪魔しました。燕市でハーブ苗を中心に栽培する花苗生産農家、
ハーベストを訪問。
「えっ!? オープンファクトリーなのに?」と意外に思われるかもしれませんが、工場だけでなく農に携わる方々も「耕場(KOUBA)」として参加できるのが、このイベントの特色です。
ハーベストは今年初参加とのことでしたが、摘んだハーブでオリジナルブレンドのハーブティーを楽しむ体験ができました。
ハーベスト入り口
ハーベスト 土田さん
ハーベスト代表の土田信行さんはもともと米農家でしたが、ハーブやガーデニングにも興味を持ちハーブ苗の栽培を開始したとのこと。味の特徴や摘み方を教わり、道路をはさんですぐの農園に案内してもらいました。
レモンバームやローズゼラニウム、スペアミントなど7種類のハーブから3種類を選んでいきます。
ハーブティー作り体験
摘んだハーブをポットに入れて、お湯を注ぎ待つこと3分。いい香りが漂ってきました。緑に囲まれていただくハーブティー。その横ではスタッフの方が窯で手作りのピザを焼き、摘みたてのバジルを添えてくださいます。
淹れたてのハーブティーと焼きたてピザという絶品コンビをいただきながら、土田さんにお話をうかがってみることに。
土田さん手作りのピザ窯
ピザ窯も土田さんが自作したそうです。ちょっと照れながら「このくらい簡単にできるよ」と話す土田さんの言葉からは、ご本人も楽しんで参加されていることが伝わってきます。
燕三条では5年前から地域の工業と農業がコラボレートする取り組みが盛んになっているとのこと。
約100もの企業が参加し、様々なKOUBAをふらっと訪れることができるだけでなく、「工と農」という、ある意味「油と水」とも言えそうな異なる産業が連携し合う「工場の祭典」は、懐深いゆるやかさが魅力の町イベントです。
その一方で、ただユルいだけでは、「工場の祭典」はここまで大きなイベントに成長しなかったかもしれません。来場者が体験するゆるやかな楽しさは、町としての「まとまり」や「一体感」のようなものに支えられていると感じました。
人が集う場に不可欠とも言える、「ユルさ」と「まとまり」。その両方が無理なく共存するイベントはどのように運営されているのでしょう?
次回は公式レセプション「作業着RUNWAY 2016」の様子をご紹介するとともに、「燕三条工場の祭典 実行委員会」の副委員長・武田修美さん(株式会社MGNET代表取締役)のインタビューをお届けしたいと思います。
(
やりたい本気が“工場”を動かす。燕三条「工場の祭典」現地レポート(後編)に続く)
記事:島田綾子(シゴトゴト編集部)
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