アナログだけど、一番大事。顔が見える繋がりをつくること。
鴨川市の地域おこし協力隊の募集を見つけたのは、たまたまだったと橋詰さんはいいます。
「ちょうど、東京以外の拠点がほしいなと思い始めていたころで。鴨川市はどうだろうと、思ったときに、求人を見つけたんです」。その時、すでに現地案内会の申込み締切直前。慌てて申込み現地へ。試験を経て採用が決まり、そこから、二拠点生活がはじまりました。
地域おこし協力隊は、各自治体によって違いはあるものの「観光」「農業」「移住」「害獣」などテーマに沿って活動することが多いそう。
しかし、橋詰さんは鴨川市内の里山地域にある「四方木(よもぎ)地区」の担当になりました。「千葉県内でも『地域の担当』として、活動をする例は少ないんです」というように、先進事例がなく、行政からも具体的な取り組みについての指示はなかったそう。
困った橋詰さんは、地区の最初の集会で自分なりにアイデアをまとめてみなさんに提案しました。
「企画書つくってもっていったんです。里山の景色が美しく、ちょうどいい広場があるし、ここを活用してグランピングとか、どうかなって。でも、みなさん、ぽかんとしてしまって。『勝手に来たよそ者が好き勝手言っているよ』みたいな感じで、聞き入れてもらえなかった。ここで何かをしたければ、地域の皆さんの協力がなければ何もできないんだなってその時実感したんです。まずは顔を知ってもらい、仲良くなることからはじめようと思いました」。
よそ者の自分を知ってもらうためにはどうしたらいいのだろう。
考えて出た答えは「四方木地区は、30世帯80人。一軒一軒訪ねてみよう」ということでした。編集業の経験を活かし、自己紹介も兼ねた地域新聞のようなご案内を制作し、「私はこういうものです。こういうことができます」と、自ら配布。直接会って話をすると、人となりが見えることで安心感が生まれ、地域の人との距離が縮まっていきました。
徐々に地域の人々に認められるようになり、拠点となる古民家のDIYにはじまり、イベントの企画、HPづくりなど、地域の方が苦手とすることを次々と形にしていきます。
3年の任期を経て、今ではすっかり地域の「顔」的存在となった橋詰さん。様々なつながりが生まれ、それが今、養蜂に繋がっていきました。
ハチのおもしろさに魅了され、ハマる。でも作業は週1日。
養蜂家としての主な仕事は、蜂の動向のチェック。刺激しないように養蜂箱を開け、蜜の状態や女王蜂の状態など丁寧に確認していきます。基本的に、一つの巣箱に女王蜂は一匹。新しい女王蜂が生まれると、群れが二つに分かれる分蜂(ぶんぽう)がおこります。知らぬ間に分蜂されてしまうと蜜の収穫量が減ってしまうこともあり、些細な変化も逃せません。
養蜂も畜産の一種。そう、いきものたちの世界です。一匹一匹に個性があるため、あの小さな箱の中にたくさんのドラマがあるのです。
例えば、女王蜂と働き蜂の関係。実は、両方メスの蜂です。選ばれた、たった一匹の女王蜂のために、その他大勢の働き蜂は、エサ取ってきたり、巣を守ったりせっせと働きます。
オスの蜂は何をしているのでしょう? オスの蜂は「子孫を残す」ためのみに存在するため、あくせくと働くことなく、成長するとひたすら女王蜂を探しにでます。
念願叶って相手が見つかったとしても、交尾をするとすぐに死んでしまうそうです。
当然、交尾をしなければ長生きするのですが、そうなってしまう役立たずなので、巣が手狭になってくると強制的に追い出されてしまうこともあるんだとか。
ちなみに、働き蜂もメスなので産卵できるのですが、生まれてくるのはすべてオス。オスとメスの産み分けができるのは女王蜂だけだそう。
女王蜂が生んだ、たくさんの卵の中から選ばれた新しい女王蜂。しかし、生まれた時は複数の女王蜂が存在するため、女王蜂の座をかけて殺し合いが始まります。最後に残った女王蜂が新しい主になるのです。
「虫はキライ。だけど、ハチはかわいいんです」。日々蜂と向き合い、様々なドラマを見ていると、そういうのもわかる気がします。
元々プロダクトをつくることに興味があり、また、地域のお土産になるような商品ができないか考えていたため、地域おこし協力隊の任期終了と共に、本格的に養蜂をスタート。はちみつは農産物扱いになるため、加工業などの許可が必要がないことも始めやすさの一つの理由でした。かつ、作業負担も、生活リズムに合っていたそう。
「養蜂の仕事は、週に1日ぐらいなんですよ」。
養蜂箱の状況確認は、一箱につき10分ぐらい。市内あちこちに設置しているため移動時間はかかりますが、1日かかることもありません。ビンの消毒やはちみつをつめたり、ラベル張りなどの作業もありますが、こちらも必要に応じてなので、調整がしやすい。
1週間のうち、鴨川に居るのは大体3日ほど。そのうちの1日を作業の日としているんだとか。
とはいえ、編集業と養蜂。2つの仕事をしていて忙しくないのでしょうか。
「変化があって楽しいですよ。いい気分転換になるし。色々としなければならないけれど、午前中は、蜂の様子を見て、午後はラベルはりをしようかな、という感じで自分で予定を決めてできるし。『仕事を自分で組む』ような感覚ですね」。
養蜂の仕事は、仕事というより好きなことをしている感覚に近いそう。自分で考えて、自分で動いて、自分で形にしていく。そんなおもしろさがある。
旅を通し、養蜂家としての仕事を体験しつつ、二拠点居住のリアルに触れ、好きをカタチにする方法を見つけてみませんか?