「鶏のことは、鶏に聞きなさい」。師匠の教えを守ってベンチャー農業40年
訪れた日の夜。古民家(菅さんの実家)をリノベしたゲストハウス「最上の荘」のリビングにて。旧式の蒔ストーブに火をくべ、温かい芋っこ汁(芋煮)に地酒「初孫」を楽しみながら、菅さんはこんな話をしてくれました。
「ここらはね、雪が降るもんだから冬場は農業ができないんだよな。6ヶ月間、雪の中での生活だからね。それでみんな出稼ぎに行くわけだけど、養鶏なら1年中できるんですよ。そもそものきっかけはそれだね。鶏は約半年でヒナから成鶏になって卵を産んでくれるから、売れれば現金収入が得られるだろうと」
菅さんの言う通り、最上町で農業を営むのは温暖な気候の地域とは異なる苦労があります。なにしろここは「やませ」の町。春から夏にかけて吹く冷たく湿った東寄りの風の影響で、農家は長年、冷害に苦しんできました。
農業高校を卒業した菅さんは、地元青年たちのリーダー的存在となり、海外の農業を視察するなど広い世界から刺激を受けます。
「新しい農業を実践したい!」
フツフツとそんな思いが膨らんできたとき、自然卵養鶏法を提唱した中島正氏との出会いがあり、指導を受けて地元の仲間たちと始めたのが「平飼い養鶏」という、当時としては新しいビジネスでした。
「その頃は、平飼いをやるなんて"変わり者"と言われたんだけどね(笑)。でも、私はケージ飼いに抵抗があったんです。経済優先で鶏をぎゅうぎゅう詰めにして、高カロリーの餌を与えて薬づけにするっていうのは…なんだか愛情がないように思えて。
鶏も自然に近い状態で育てると、美味しくて健康的な卵を産んでくれるんですよ。中島先生がおっしゃったんです。『鶏のことは、鶏に聞きなさい』って。最初はなんのことかよくわからなかったけど、最近ちょっとわかりかけてきた。聞いてみたら鶏は、『一番のごちそうは、新鮮な空気と水、土。そして、その土地で採れたもの』だって言うんだね。まあ、まだ道半ばではあるんですけど」
最上の荘園では鶏に、キノコの菌床を15%ブレンドした餌を与えています。ノコクズ発酵飼料や米ぬか、魚粉や牡蠣殻など10種類の飼料をブレンドしたオリジナル飼料のほか、鶏舎の周りに生える新鮮な草も食べ、通常より時間をかけてじっくり育てた鶏だからこそ、卵に濃厚なエネルギーが宿るのでしょう。
この飼料を食べた鶏はフンもサラサラ。土に還すことができるため、有機肥料として活用することができます。
「環境をつくることも農民の務めです」と菅さん。このひと言からも菅さんが"農民”という仕事にプライドを持っていることが伝わってきます。
近年欧米では、「アニマルウェルフェア(家畜福祉)」の考えが広まり、EU諸国では従来型のケージ飼育を規制、あるいは禁止する方向に動いています。米スーパーチェーン大手ウォルマートが、2025年までに扱う卵をすべて「ケージ・フリー」にシフトすると表明するなど、世界的に見れば「平飼い」あるいは「放し飼い」はいまや養鶏の主流。
「最上の荘園」は事業規模こそ大きくないとはいえ、こういった"イノベーティブ"な生産スタイルを約40年前に導入しています。
言うならば昭和のベンチャー農業。
そのやり方がようやく世界のスタンダードとなりつつあるのですが、平飼いのパイオニアの一人として、様々な失敗と経験を重ねながら40年にわたって続けてきたのは、並大抵のことではない。この夏の台風による水害でも約100羽の鶏を失ってしまいましたが、菅さんはへこたれていません。
苦しいことがあっても、マイペースで楽しく仕事を続ける秘訣とは? それは現地でご本人に、直接聞いていただきたいところです。
旅の半分はホストと相談の上、ご自身で"プランニング"を
菅さんは養鶏や稲作の傍ら、公民館の館長や最上町議員を務めるなど、地域を元気にする様々な活動にも力を入れてきました。持ち山には200本の桜の木をみずから植え、春には訪れた人の目を楽しませてくれます。
66歳となった現在(2018年)は、自給自足型の生活に憧れ農業に専念し、ゲストハウスの整備や水田のオーナー制導入、ハーブを用いた新商品の開発といった新しい取り組みにも着手しようとしています。
冒頭でもふれたようにこの仕事旅行では、養鶏場での採卵の手伝いを中心に、季節に応じて様々な農業体験をすることができます(※養鶏は通年。春から秋にかけては稲作やキクラゲ。冬場は雪かきなどシーズンによって体験プログラムの詳細は変わります)。
しかし、それは旅の半分。卵で言うと黄身の部分。この旅では栄養のある"白身"も味わっていただきたいもの。
菅さんが今回、仕事旅行の旅人を受け入ることを決めた背景には、平飼い養鶏を体験してほしい気持ちと同時に、よその人に来てもらって新鮮なアイデアや刺激をもらいたいーーという期待もあるようです。
夜、食卓を囲んで仕事の話を聞きながら、新しい農業や地域の振興策について話し合ってみるのもよいでしょう。菅さんの棚田の脇に湧くぬる湯(温泉)の活用策などのアイデアも歓迎です。
つまり、旅の半分は参加者ご自分が、菅さんと相談しながら"プランニング"することで、より中身の濃い体験ができます。夏ならば養鶏のほかに棚田をめぐるのもよし、冬ならばあえて雪に閉じ込められる体験をするのもよし。
何が起こるかわからないからこそ旅は面白いーーそう考える人にふさわしい体験プログラムです。
よって参加ご希望の方はこのページから申し込みいただき、まずは日程を確定させた上で、菅さんと事前に一度はやり取りをし、シーズンによって変わる体験の詳細を確認することをオススメします。
1泊2日の体験となりますが、スケジュールの組み方も比較的自由。
当日は駅までお迎えに来てくださるので(帰りのお送りも)、お昼頃にJR陸羽東線・最上駅に集合が目安です(ほかの仕事旅行とは異なり、到着時間の事前連絡が必要)。
初日は鶏舎での仕事を体験したり、農場を見せていただけますが、翌日のプラン詳細は現地で決めていくスタイルになります。
要望には可能な範囲でフレキシブルに応じてくれますので、やり取りの際に「こんなことできませんか?」と相談してみるのもいいかも。
そのやり取りから仕事旅行は始まっています。菅さんはとても気さくな方ですが、メールの返信が得意ではないため、お申込み後はお電話でのやり取りがスムースです!
※お申し込み日と翌日の2日間の体験です(解散は2日目のお昼すぎを予定)。
※食費や現地での移動などの費用は参加費に含まれています。
旅のスケジュール
時間 | 行程 | 体験内容 |
12:00頃 | JR陸羽東線最上駅集合(お迎えに来ていただけます) | |
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| ゲストハウス「最上の荘」にてオリエンテーション | ・自己紹介、参加動機 持ち帰りたいこと |
| 仕事を知る | ・鶏舎と農場めぐり
‐鶏舎での採卵体験など
‐最上の荘園の農場見学 |
18:00 | 夕食をいただきながら | ・「平飼い養鶏」と最上の農業について。なぜこの仕事を続けてきたのか? 翌日の体験について相談 |
07:00 | 朝食と午前のひと仕事 | ・前日の相談をもとに農業体験(ご希望、シーズンによって内容が変わります)
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12:00 | 旅のまとめ | ・旅のしおりの記入と質疑応答 |
13:00頃 | 終了 | 最上駅にて解散 |
※当日の状況によりスケジュールは前後いたします。ご了承下さい。
女性 カオリ
男性 アガツマ