仕事旅行づくりを手伝ってくれている編集職人の皆さんが、みずから仕事旅行を体験。そこで学んだこと、感じたことを自分の言葉で直球レビューします。旅選びのご参考に。
自分を表現したり、何かを人に伝えたいとき、どんな手段を取るのかは、本当に人それぞれだと思います。
音楽で表わす人、絵で伝える人、言葉に乗せる人、身体の動きで表わす人、数字で伝える人、味で表わす人...
このヒトは何を思って、何を伝えたくて、作詞という道を選んだのだろう。そして、食べていかなければいけないという現実との折り合いをつける過程で、作詞以外の複数の仕事を手掛けていくようになったその道のりは、どのようなものだったのだろう。
純粋な好奇心8割・学びへの期待2割をこめて、今回の仕事旅行を申し込んだのでした。
「書くこと」が仕事の軸になっている
旅の案内人は、作詞家でパラレルワーカーの伊藤 緑さん。音楽業界の人だし、個性的でちょっと派手めな、主張の強そうな人かな?というイメージを描いていましたが、実際にZoomでお会いした伊藤さんはごく真面目で物静かな、知的な印象の女性でした。
「今日は(参加が)お一人なので、何でも聞きたいこと、聞いて下さいね。」と、柔らかな笑顔で迎えて下さいました。
私とは「ちょっと年の離れたイトコのお姉さん」くらいの年代の伊藤さん。懐に飛び込むつもりで、聞き始めました。
まずは、ものを書く仕事のなかでも「作詞家」という道を選んだきっかけから。
もともと詩や文を書いたりすることは好きだったけれど、”作詞”を意識するようになったのは、高校時代の音楽好きの友人の影響があったそう。試しに、ある楽曲のもともとあった詞を全て自分の詞に変えてみる、ということをしてみたら、「これがすごく面白かった!」のだそうです。
実は私自身も似たようなことを中高生時代にしていたので、この話を聞いてちょっと驚きました。(こんなことをしていたのは私くらいかも、と思っていたので。)
私の場合は、英語が好きだったので、お気に入りの海外アーティストの曲の歌詞を、CD付属の歌詞カードを見ながら自分の言葉で訳しては、悦に入っていました。今にしてみれば、恥ずかしい限りですが...
さてさて伊藤さん、そこから”作詞”にのめり込んでいったものの、わかりやすい資格や入り口となる学校があるわけではなく、どうすればなれるのか、皆目検討もつかないのが「作詞家」という職業。
学校卒業後は、作詞とは無縁の会社に勤め始めたのですが、そんな伊藤さんを、眼の病が突如として襲います。幸い快復したものの、もう少し対応が遅れていたらこの先の生涯が確実に違うものになっていた、という経験をされて、「”本当にやりたいこと”をやらなかったら、自分は絶対に後悔する」と心から思ったのだそうです。
そうして、作詞家になるための東京での活動時間を増やしていき、そこで得た縁を頼りに、会社を辞めて作詞家になるべく上京したのでした。
上京して音楽事務所に所属し、少しずつですが夢だった”作詞家”として作品を残していく日々のなか、それだけでは食べていけない、という大きな現実と折り合いをつけていくため、好奇心と行動力の赴くまま「どんな体験でも作詞のタネになればいい」というハングリー精神をバネに様々な仕事をしていくようになっていったそうです。なかでも、正社員にまでなったIT企業での広報の仕事は、とてもやりがいのあるものだったそう。
しかし仕事一辺倒の日々のなかで、だんだんと自分自身が大切な”軸”から離れていってしまっているのでは、という違和感を感じ、やはり自分は書くことを通じて自分を表現していきたいんだ、と気づいて会社を辞め、フリーランスに。
そこからは、持ち前の好奇心と行動力を武器に、これまでの仕事で培ったスキルに加えて、さまざまなヒトとのご縁で、仕事の幅を広げていったそうです。
手放すことで得られることもある
「仕事って、足し算じゃなくて”かけ算”だと思うんです。」と伊藤さんは言います。
自分の軸である「書いて伝えること」に「ヒトとのご縁」をかけ算して、成果を出す。その成果を見たヒトがまた「ご縁」をかけ算してくれて、さらに大きな成果が出る。
自分自身に「資格」や「スキル」を”足し算”していくことばかりを考えていた自分に気付かされた言葉でした。まず、自分の軸を持つこと。そして、”かけ算になる要素”を見つけていくことが大事だということ。私に欠けていた視点でした。
また、フリーランスという仕事の形態は、自由な反面、不安定さも否めない。そこはどう考えていますか? と聞くと、こんな言葉が返ってきました。
「これは人から言われたんですけどね。例えば、50万円の収入が欲しいとするでしょ。その時、”50万円の仕事を1本”にしちゃったら、それがダメになったら50万円全部ダメになる。それよりも、5万円の仕事を10本にすれば、1,2本ボツになっても、残りがOKなら何とかなる。一つの会社・一つの仕事に頼るほうが、怖いこともあるんじゃないかな。」
う〜ん確かに。人生100年が叫ばれて久しいですが、「教育を受け」「仕事をし」「引退する」という3ステップがスタンダードな人生だった時代は、仕事をする年月は一つの会社・一つの仕事(しかも有名で安定した大企業なら尚良し)を極めることが大事だったけれど、もうそんな時代は脱しつつあるのでしょう。
そういう時代を生きていく私たちにはこちらの考え方のほうがスタンダードになるのでは、とさえ思えました。
気づけば、作詞家さんに対して肝心の作詞のことはほとんど聞かず、キャリアの話ばかりを聞いてしまっていたのですが、そのことをお詫びするとーー
「全然良いんですよ。作詞がやりたい方にはもちろん、作詞や音楽業界の話をガッツリしますしね。その方に合った話をするようにしています。」
と、屈託なく笑いながらおっしゃる伊藤さんでした。
これまでのキャリアを通じて、数多くの人と関わってきた伊藤さんには、とにかくたくさんの引き出しがあるようです。旅に来た人の興味に沿った”ナマの情報”をいただけること請け合いです。
私自身も、伊藤さんのお話を伺うなかで興味深く感じた事柄に関するサイトや、記事のリンクをたくさん教えていただきました。
本当のナマの情報は、ヒトが持っている。それは、会いにいくことでしか得られない。
そのことを実感した旅でした。
最後に、伊藤さんが大切にされているという、こんな言葉も教えて下さいました。
「しがみつくより 手放す方が 遙かに強い力を必要とする」 ーJ.C.ワッツ
継続することは大切だけれど、ただ惰性で続けることとは、違う。
何かを継続して持ち続けていたり、いろいろなことにチャレンジしたりして、気づけば両手に持ちきれないほどになってしまうのは、ままあること。でも、時には手放すことも必要。手放すことで得られることもある。両手に持てる量は決まっている。
そんなふうに思っているんですよ、というコメントに添えて教えていただいたのが、さきほどのJ.C.ワッツの言葉でした。
時には苦しみながら、失敗もありながら、自分の軸を信じて取捨選択を繰り返してきた伊藤さんに、あなたもぜひ会いにいってみて下さい。
記事:木下清香(編集職人)
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