金融業界の事務員“ぐっさん”(特技:早起き)が、仕事旅行やイベントへの参加、読書などを通じて気づいた「自分の“はたらき”」について執筆してくれました(「シゴトゴト」編集部)。
はじめまして、「ぐっさん」と申します。こうお伝えすると、芸人の「ぐっさん」のおかげか男性と思われるのですが女性です。「金融業界の事務員」というやつを、しています。
ごまんといる事務員の中で人に負けないものがあるのだとしたら、それは、もう20年くらい朝5:30に起きる生活を続けているということくらいでしょうか。この記事も、仕事の前に、勤務先のビルの近くにあるスタバで書いています。
現在朝7時。いつもなら「ぼーーーっ」としている2時間を、この記事の執筆に振り替えてみる、そんなチャレンジの真っ最中です。よければ、ちょっとオタク気質で欲望のままに突っ走る金融事務員の話に、少しおつきあいくださいませ。
頭の中は65歳!
約3年前。季節は春。会社は違えど同じく「金融業界の事務員」である先輩方や友人たちと飲んでいると、いきなり先輩が話し出した。
「ねぇねぇ、“今楽しい”ってある? 雑誌の特集で『給料があがる人、あがらない人』『幸せに必要な予算』とかあるとさ、老後のことばかり考えちゃう…心配で」
「わかるわかる、もうさ、頭の中は65歳だよね!」
「じゃあうちらいつ幸せになれるの? 65歳? 遅っっ」
「まぁ将来のためと思うしかないねぇ」
わっっっ、わかる! 私も同じ気持ちです! そこもっと語りたいです!! 将来が心配で、「老後のために」と今から活動する。それって大事なことではありますよね。だけどずっと「先」のことしか見ていないのも、常に自分の照準が「65歳」にしかないことも、苦しいですよね。これずっと続くんですか? 先輩!
——と思った。(実際は、そんなこと言えるわけもなくさらりと笑顔で聞き流す)
さらに遡ること、1年前。大学時代のアルバイト仲間とプチ同窓会をした。
同じ場所でアルバイトを続けながら劇団で演劇に燃えていた友人が、「仕事が安定してて、いいね」「老後は年金ももらえるし安心だね。幸せで、うらやましい!」と言った。
だけど、私は素直に「うん」と言えなかった。確かに明日自分の会社が潰れる可能性は低いかもしれない。老後にはわずかではあるが年金ももらえるだろう。
「仕事が安定している=幸せ」なのかもしれない、もっと幸せだと思わなければいけない、でもなんでこんなにモヤモヤするのだろう。「今」楽しいことをしたい、自分のこころを「今」に取り戻したい。しかし、先輩たちの会話を聞いて「ここにいる限りそれは不可能」なように思えた。
右往左往する30歳
ちょうどその頃、2012年あたりから、「仕事」「働き方」について注目が集まりはじめ、特にここ1~2年で「未来の仕事」「これからの働き方」をテーマにしたイベントや本の出版が増えてきたように感じる。
それだけ多くの人がそのことに興味を持ち、期待を抱き、少し不安にもなっている、ということなのかもしれない。私自身、ここ数年、「未来の仕事」や「これからの働き方」が気になり、ワクワク・ドキドキ・ビクビクを繰り返してきた。
WIREDの『未来の会社ーこれからの「働く」を考える』(2013年3月)に胸を躍らせ、COURRIER JAPONの『これから「必要とされる人」「されない人」 世界から「仕事」が消えてゆく』(2012年11月)や週刊東洋経済の『2030年 あなたの仕事がなくなる』(2013年2月)のタイトルを見てギクリとし、自分の仕事が載っていないだろうかとこっそりチェックした。
ワクワクドキドキしたのは、「社会の変化」を見ることが好きな性格だからで、ビクビクしたのは「自分の仕事は、ロボットに奪われてしまうだろう」という確信めいたものがあったから、だ。
そこで、自分がいる場所とは違う世界を見に行くことにした。「今」新しい世界を見て、刺激を受けて、「自分だけの幸せのものさし」をつくりたい。その一心だったように思う。興味があるものは、とにかく読もう。興味があるものは、全部見に行こう。
ちょうどその頃、スタートアップ界隈の人と知り合う機会があった。
それまで、「AERA」「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「日経ビジネス」、月に1回の「日経WOMAN」、ときには「COURRIER JAPON」「PRESIDENT」「BRUTUS」を読んでいたが、それに加えて「WIRED」と「ソトコト」を購入し、Webでは「Startup Dating(現THE BRIDGE)」と「greenz」の記事を読みあさった。夜な夜な…いや、毎朝、わけのわからない単語で埋め尽くされた過去記事を浴びるように読んだ。
Amazonで関連しそうな本を検索して取り寄せて、次の日の朝にまた読んだ。「ソーシャル」「スタートアップ」という言葉を知り、お堅い金融業界にはない考え方を知った。(「一度サービスリリースしてみて、その後にユーザーの意見を聴きより良く改善していく」という考えには、「すぐやってみるってすごい!」と心底驚いた)
そうしているうちに好奇心の塊になり、文字では飽き足りず、外に出ることにした。自由大学、マザーハウスカレッジ、読書会10over9 ReadingClub、仕事旅行、OpenCU、本屋B&B、藝術学舎・・数えきれないほどたくさんの講義やイベントに参加した。
おもしろいヒト・コト・スペースを追いかけて行く中で、いくつもの大切な出会いがあった。「私」として人と関係していくというのは、とても楽しい。いや、楽しいどころか、心躍るというか…格別だった。
はじめは自分にはスキルも度胸もないし何話してもおもしろくないし…と信じ込み、その場に居ることはあっても誰かと交わることすらできずおどおどしていたけれど、ある勉強会で「あなた一人いると、なごんでいいね。“居る係”だね」と言ってもらえて、「ああ居ていいんだな」と思った。それをきっかけに少しずつ顔をあげることができるようになった。
素敵な人同士をつなげたいと思い、主催者の方々に「こういう人をゲストにどうですか!」と推していたところ、「そんなに好きなら、自分で企画したら?」と言っていただき、企画をまかせてもらった。無事ゲストに出演いただけ、会を開催することができた。
とあるワークショップでは、意見を戦わせることが得意ではないという理由で、自分の意見を少し話しつつ、あとは人の意見を受けとめ真剣に傾聴していたら、「ファシリテーションって知ってる? やってみない?」とお声をかけていただき、別のワークショップでファシリテーターデビューをした。
気づいたら少しずつ「今」を感じることができるようになっていた。
あれからもうすぐ3年。私の仕事は、一応、まだある。
10歳の自分へ
働き方研究家・西村佳哲さんの『わたしのはたらき』という本の冒頭に、こんな一節がある。
「わたしたちには一人ひとりに、その人が持っている“はたらき”があるように思います。それは職能や肩書き以前のもので、持ち味と言えなくもないけれど、もっと力に近い。本人がいることで周囲が受ける影響、ごく自然に生まれる作用があると思う」
なごませる。つなぐ。共有する。受けとめる。
人に出逢い、人と話し、人と何かを創るということを通じて、自分の“はたらき”を知った。三十路になっていた。
さらに西村さんの本には、こう続く。
「その“はたらき”と、本人の仕事、ひいては生きていることがより一致して感じられるとき、人は納得や満足や安らぎを得ているように見えるのだけど、どうでしょうか」
ずっと仕事って、大大大好きなものや特別な才能がある人だけが選べるのだと思っていた。昔から将来の夢を聞かれるのがイヤだった。10歳の頃、「本が好き」というと、「じゃあ本屋さんになればいいね」と先生は言った。
実際は、本を読むことや所有することは好きだけれど、本を売るのも作るのも興味がなかった。書く才能もなかった。「好き、を仕事に」ができない自分は、自分の嫌いではないこと、やりがいを感じられるものを仕事にするしかないと思っていた。選ぶなんて…という気持ちでいた。
でも、私も選んでいいらしい。自分の“はたらき”で。それなら私にもできそうだ。
32歳からのハローワーク
2016年、早速「未来の仕事」「これからの働き方」に関するイベント開催や出版のニュースが入ってきている。時には、「これからはこう働くべき!」「これからの仕事はこうやって選ぼう!」といった「仕事論」も聞こえてくる。
そんな「仕事論」は、なんのために働くのか、この働き方によってどう幸せになれるのか、わかりやすく提示してくれる。それらはとても力強く、魅力的に映る。しかし、それは「他の人が考える幸せのものさし」で、結局「自分の幸せのものさし」ではないのだと思う。他の人が考える幸せにつきあっていると、また後から「それって幸せなんだっけ?」というモヤモヤがやってくるだろう。
何を大切にして、何を幸せと呼ぶかは、人によって異なるのだから、最終的には自分で動いて考えてまた動いて、「自分の幸せのものさし」をつくっていくしかない。
ここまで長文を読んでくださったみなさん、ありがとうございます。今後もこの「シゴトゴト」で、インタビューやコラムを書いていきたいと思っています。人に出会い、対話をして、素敵な人や考えに出会って、みなさんと共有したいです。
自分の“はたらき”とはなんだ? 「自分の幸せのものさし」ってどんなだろう? メディアの仕事論や世の中の空気に惑わされることなく、一緒に「今」を楽しみながら、考えていけたらうれしいです。
文・ぐっさん(金融事務員)
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