2019年03月20日更新

哲学とものづくりの深い関係。"問い"のエンジニア、瀬尾浩二郎さんが哲学雑誌『ニューQ』を創刊した理由

最近書店で「哲学」をテーマとした本を目にすることが増えた気がします。そんな中、『ニューQ』という哲学雑誌が2018年12月に創刊されました。

この雑誌を作ったのは出版社ではなく、セオ商事というWEBサービスの企画設計などを行う制作会社です。
。セオ商事の社長であり『ニューQ』編集長の瀬尾浩二郎さんは、広告賞など数々の受賞歴を持つ著名なエンジニアでもあります。

哲学とものづくり。一見相反するイメージがありますが、どうして瀬尾さんは哲学雑誌を作ろうと思ったのでしょうか?その経緯を伺いました。


独立した瞬間、ぼんやりしてしまったんです。


ーーセオ商事として独立する前は、どんな仕事をしていたのですか?

面白法人カヤックという会社で10年間、WEBやモバイルアプリ、サイネージなどの企画・設計と開発をしていました。

いろいろ作りましたが、中でも植物に電極をつけ、そこから得られる情報をもとにブログを書く「今日の緑さん」という作品は、植物とWEBを繋げた事例として当時珍しく、多くのメディアに取り上げて頂きました。

ーーたくさん受賞をされていて順調なキャリアだったと思うのですが、なぜ独立しようと思ったのですか?

後半はマネジメント職だったのですが、もう一度自分で考えて作ることをしたいと思い、独立しました。35歳の時です。

ほとんどの人は独立した瞬間、勢いよくスタートするものだと思うのですが、自分の場合はそれまで結構忙しかったこともあって、ぼんやりしてしまったんです。長い夏休みが始まったように(笑)。そもそもどういう仕事をしたいのか?というところから考え始めました。


クライアントと「哲学対話」をやってみて、ここに何かある!と感じました。


ーー哲学に興味を持ち始めたきっかけは何だったのですか?

友人の哲学と人工知能の研究者である三宅陽一郎さんから色々と教えてもらったことが、一つのきっかけです。

三宅さんによると人工知能を考えるには、そもそも「知能とは何か?」ということを掘り下げることが必要という話しがありまして、この哲学的な切り口は面白いなと。

あるとき、三宅さんが関わっている「人工知能のための哲学塾」に行ってみたら、これがすごく面白くて。人工知能の研究者、ゲームの科学者、脳神経学者から、なんとなく来た人まで、さまざまな人が参加していました。

ーー「人工知能のための哲学塾」はどこが一番面白かったのでしょうか?

ここでは、ディスカッションのテーマが”問い”なんです。「人工知能にとって時間とは何か?」「人工知能は夢を見るか?」というような"問い"をベースに話し合います。

メンバーもさまざまなので一見バラバラになりそうなんですが、これが意外にまとまっていくことに驚きました。後で知ったのですが、「哲学対話」という手法をもとに行われていたんです。
※哲学対話…普段なら当たり前だと思って通り過ぎてしまうような事柄について、「問い」をベースにディスカッションする実践的な哲学の手法。

自分は企業向けによくアイディアワークショップを開いていたのですが、「アイディアを出そう」と始めると萎縮して話せない人がいることが気になっていました。でも「そもそもこれってどういうことでしたっけ?」という問いから始めると、立場にかかわらずみんなが発言して、議論を深めることができたんです。

ーー「哲学対話」によって、活発なディスカッションができたのですね。そこから、哲学を仕事に活かしたいと考えるようになったのですか?

そうなんです。新サービス立ち上げのお手伝いをするときに、さっそく哲学対話をベースにしたワークショップを行ってみました。その時は遺伝子情報を扱うサービスのプロジェクトで、「自由とは何か」という"問い"をテーマに話し合いました。

多くの人は「自由という概念は今も昔も変わらないもの」と思っていますよね。でも、「そもそも自由ってなんだっけ?」と議論するうちに、だんだん自由の見え方が変わってきたんです。

ーー「自由」の見え方が変わる…?具体的に何が起こったのでしょうか?

たとえば、「スポーツをやりたい人の遺伝子が、残念ながらスポーツ向きでないことがわかる」というケースがあるとします。

そのときに、遺伝子情報を知ることで「選択の自由が減った」という考え方もあれば、「選択肢が減ったことで、逆に本人が向いていることに取り組む自由が増えた」という考え方もあります。遺伝子という自分の力では変えられないもので、自分の向き不向きがある程度分かってしまう時代が訪れたとき、私たちにとっての「自由」の意味は変わってくるはずなんです。

ーー普段当たり前と思っている前提を覆すような議論がされたのですね。これがサービス開発にどのように活かされるのでしょうか?

”問い”をベースにしたディスカッションをすると、サービスを作る上で検討するべきテーマが明確になるんです。先ほどの場合は、もちろん遺伝子情報だけが全てに影響を与えるわけではないのですが「遺伝子情報を知ることで、これまでの自由のイメージが変わってくる」という一つのトピックが生まれましたよね。

「何を考えないといけないのか」「何に注意しないといけないのか」「何を価値として持たないといけないのか」という本質的な論点が明確になる哲学対話の効果を知って、ここに何かある!と思いました。

ーー企業のサービスを作る上で検討するべき”本質的なテーマ”が明らかになったのですね。エンジニアにとっても、そのような”問い”を持つことは必要なのでしょうか?

シリコンバレーをはじめとしたベンチャーでは「考える前にまず手を動かせ」という態度が重要でした。
新しいプロダクトを作るときも、まずは手を動かしてきたんです。

その結果、考えるプロセスが弱くなって、結局似たようなものをみんなで作ってしまったり、その場の思い付きで作ったものだらけになってしまっているような気がして。

だからその反動として、もう一度「考える」ことに取り組んだ方が、結果的にいいサービスを生むんじゃないかと思ったんです。


突然、天啓が降りてきたんです。


ーーなぜ雑誌を作ろうと思ったのでしょうか?

“問い”を立てて考えることの面白さをカジュアルに伝える手段はないかな、と考えていたときに、ふと「雑誌を作ればいいんだ!」と天啓が降りてきたんです(笑)。

ライターの経験はありましたが、雑誌を作ったことはなかったので、とりあえず企画書を作って手伝ってくれる人を探してみると、意外に多くの人が「それいいね!」と言って協力してくれました。編集の経験者から哲学に詳しい人まで、雑誌を作れるだけのメンバーが揃ったので、「これで大丈夫だ!」と思って本当に作りはじめました。

ーー編集の経験が無い中で、ためらいはありませんでしたか?

未経験であることに対して、そこまでハードルは感じませんでした。振り返ると、自分は3年単位くらいで仕事が変化しているのですが、"職能を変えるスキル"を知らぬ間に身につけたのかもしれません。

それに、あまり編集を知らないのは逆にチャンスだと思いました。WEBは情報や手法が業界内でオープンに共有される文化があるので、アイディアの出し方やモノの作り方が結構コモディティ化しているんです。一方で編集の手法はきっとまだそこまでコモディティ化していないのじゃないかという予測がありまして、なので自由なやり方をやってみようと、そこが楽しみでした。

出版業界の人から言わせてみれば、そんなことないかもしれませんが、もしそれが勘違いだとしても自分たちの雑誌なので、とにかくやってみようと思いました。

ーーどのような雑誌にしたいと思って作りましたか?

自分が決めた唯一のルールは「答えの書いてある雑誌にしない」ということです。

世の中には「答えが書いてある雑誌」と「答えが書いていない雜誌」があると思います。前者は「専門家が”知っていること”を書く雑誌」で、後者は「専門家でない人が”知らないこと”を書く雑誌」です。

「答えが書いていない雜誌」は数が少ないですが、読んだ後に考えさせられる雑誌が好きで、『ニューQ』はそういう雑誌にしたいと思いました。


まぁ、頭がおかしくなったと思われたのかもしれません 笑


ーー周りの方からの反響はいかがでしたか?瀬尾さんが雑誌を作ることについて、よく理解できないという方もいたのではないでしょうか。

雑誌でしかも哲学を扱うということで、心配していただいた方もいました。「大丈夫なんですか?」「WEBやめちゃったんですか?」と声をかけてもらいました。まぁ、頭がおかしくなったと思われたのかもしれません(笑)。

雑誌を作ると聞いて、ぽかんとする人は多かったですが、でもコンセプトを話すと、多くの人は「わかる」と言ってくれました。哲学的に考えることに興味を持っている人は意外と多いのかもしれないですね。

あと、哲学の素人が作った雑誌なので、哲学者の方からお叱りを受けるかもしれないということは最初から覚悟していましたが、今のところそのような声は無いです。逆に「すごいね」と言ってくださる方もいて、嬉しかったです。

ーー本業のWEB制作の仕事との関連はあるのでしょうか?

WEB制作会社は、クライアントワークが中心になるので、どうしても自社のアイデンティティを見失いがちなんです。

そんなときは、自社サービスを作ったり、何かしらのプロジェクトを立ち上げて方向性を確認しようとするケースが多いのですが、セオ商事の場合は、この『ニューQ』が自社アイデンティティを確立するのにちょうどよかったです。WEB制作においても”問い”を立てて考える会社でありたいと思っています。


季刊にすると過労死することがわかったので、年二回の発行を予定しています。


ーー今後はどのようなスケジュールで発行していきますか?

創刊号は12月に発行したので、季刊で次は春を予定していたのですが、もう間に合わないですね(笑)。でも、コンセプトは第三号まで決まっています。
※インタビュー時点で2月

第二号は「エレガンス号」です。アートやファッションを「エレガンス」というキーワードで考える号です。数学なんかも取り扱うテーマに入ってきます。「エレガントな公式」とか言いますしね。

第三号は「名付けようのない戦い号」です。これは社会派の号で、例えば「食べログを見ない」「価格.comを使わない」とか、そういう行動を通じて”何か”に対して抗っている人っていますよね。その人たちの”問い”を社会派の問題として取り上げたいです。


「問いを立てて考えること」の面白さを広めていきたいです。


ーー『ニューQ』を読んで、ものの考え方に影響を受ける人が出てきそうですね。

そうですね。”問い”を立てて考えることの面白さがもっと広がるといいな、と思っています。

例えば、会社の会議で「そもそもどうして、これやろうとしてたんでしたっけ」なんて言うと、すごい怒られますよね。でも、「それもそうだな」という方向に考えられる人が増えれば、本質を見失わずにものを作ったり、行動することへ通じていくんじゃないかと思うんです。

ーーこれからも『ニューQ』の発行を継続していく必要がありますね!

企画はすでに7年分くらいあるので(笑)ちゃんと発行を続けられる体制を作りたいです。

今後もしかしたら自分の興味関心が移る可能性もありますが、今はちゃんと哲学を勉強したいと思っています。占い師に「40歳で始めたことはずっと続く」と言われたので、『ニューQ』は長続きしそうですね。

■ニューQ Issue01 新しい問い号


出版社:株式会社セオ商事
発売日:2018/12/20
価格 :本体1500円+税
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■瀬尾浩二郎さん プロフィール

Creative Director / Engineer
THE GUILD Member, 株式会社セオ商事 代表取締役, ニューQ編集長

大手SIerを経て、2005年に面白法人カヤック入社。Webやモバイルアプリの制作を主に、エンジニア、クリエイティブディレクターとして勤務。2014年4月よりセオ商事として独立。「企画とエンジニアリングの総合商社」をモットーに、ひねりの効いた企画制作からUI設計、開発までを担当している。

(取材・文:一本麻衣)
ロングインタビュー: 2019年03月20日更新

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