2016年12月26日更新

田中翼の「あの人の仕事場に行ってみた日記」vol.3ー文系フリーランス! 黒田悠介さんの働き方はまるでボブ・ディランだ

一般的に石の上にも3年と言われるように、日本社会においては、転職回数が多いことは、あまり好意的にとらえられない。下手すると可能性を広げるどころか、狭めてしまうことだって起こり得る。

今回紹介するのは「フリーランス」の黒田悠介さん。大学卒業後の10年足らずの社会人生活の中で、4回も転職を果たしている。しかも、そのうち2回は完全なる異業種への転向。にもかかわらず、現在幅広い業務を手掛けている。

黒田さんの働き方の自在さは下記のプロフィールにも表れている。

元ITベンチャー社長がフリーランスに転身。デザインもプログラミングもできないフリーランスは食べていけるのでしょうか? 日本のキャリアの多様性を高めるため自分で実験しています。価値観や生き方と同じくらい、働き方にも多様性があってもいいはず。肩書は新規事業ディスカッションパートナー(NBDP)。対応業務は他にもパーソナル起業トレーナー、セミナー講師など。ブレンディッド株式会社 取締役COO。


転職を繰り返しつつも、手掛ける仕事の幅を着実に広げている黒田さん。その職歴にこそ、転職のコツやヒントが隠れているのではと勝手に考え、突撃訪問してきた。

自分以外の人間が仕事をしても、同じ結果が出るようなら自分じゃなくてもいい


黒田さんが大学卒業後に入社したのは、ウェブマーケティングを手掛けるベンチャー。大学で学んだ認知心理学を生かした仕事をしようと選んだ。なかでも業務に深くかかわることができる小規模、中堅企業に絞って就職活動をした。

「入社を決めた時点から、転職が前提にあった。乗った船からいつでも自分の意思で乗降できるくらい自分の力が身につくところで働きたかった」と黒田さんは語る。

入社してまもなく、社内から新規事業立ち上げの話が出る。仕事への姿勢が認められ異動のチャンスに恵まれる。しかし、新規事業と言えど、2年も経過すると仕事はひと段落。マニュアル化の余地が出てくる。

「自分以外の人間が仕事をしても、同じ結果が出るようになる。自分じゃなくてもいい」

より専門的な小さい組織で働いた方が学びは大きいのでは? と、小規模かつ新規事業を積極的に手掛ける会社という軸で転職を決める。

次の会社では、入社後1年もたたないうちに子会社設立の話が出てくる。その代表に黒田さんが選ばれる。就任後、経営は順調に推移し、余剰資金も出るように。事業拡大と考えたが、問題が発生する。優秀な人材の確保がうまくいかなかった。

文系フリーランスとしてデビュー


どんなに経営状況が良くても、人的資源が足りないことによって、事業にブレーキがかかるのは忌々しき課題であると考えた黒田さん。そして興味は人材紹介業界へ。

社長業を辞して転職。再びサラリーマンに戻った。新天地で任されたのは、キャリアカウンセリングや学生にキャリアを説く仕事でまったくの未経験だった。
 
「選んだ道が説得力を作ってくれた。なので、過去の経験がまったく生きていないわけじゃない。抵抗感はあまりなかった」



キャリアの話を学生にしていると、企業に勤めるよりも、起業家やフリーランスになったほうが良いのでは? という人にも出会う。会社員の話や、社長業については実体験から語ることができたが、フリーランス未経験な黒田さん。自分の経験不足を感じ始める。

同時に体調を崩し、長い時間働くのが厳しくなる。仕事を減らすなどの対応をするものの、だれかに雇ってもらうのではなく、自分が働けるだけの時間で稼がないといけないと考えるように。

「フリーランスという働き方が一般的にできれば、働き方が多様になる。週2日だけ働くとかいろんな働き方ができる」

経験不足を感じたことと、体調の変化からフリーランスデビューし、現在に至る。

ちなみに黒田さんは、みずから「文系フリーランス」を名乗っている。プログラマーやエンジニアといった理系の人々はフリーランスとしても働きやすそうなイメージがあるが、文系はそれほどでもない。

文系である黒田さんが会社員、経営者をへてフリーランスになるにあたり、みずからの仕事の価値をアピールし、差別化を図るためのこれは意思表示なのかもしれない。



黒田流「仕事はこの3ポイントで選べ」


黒田さんの経歴を見ると、当初決めたゴールに向けて、計画的に進むという印象はない。むしろ、その場その場で感じたことに素直に従っている。転職を繰り返す中で、自らの性格に理解を深め、より適した働き方を選択しているように見える。

様々な職業とポジションを体験してきた黒田さんに仕事選びのポイントを聞いてみた。

ひとつ目は「実験」できる仕事かどうか?

仕事と実験というのは一般的にはなかなか結びつきにくいが、彼にとっての仕事観を象徴するキーワードだ。ここでいう実験とは、自ら見つけ出した社会的な「課題」を解決する一連の行為をいう。課題に対し「仮説」を立て、その仮説を「検証」するために行う行為が「仕事」である。

ふたつ目は自分の「介在価値」を生めるか?

つまり、自分が居ることによって生まれる出会いや反響が得られる仕事であること。

そして3つ目は「社会的な大義」があることだ。

社会に出たばかりのころはほとんど意識することはなかったが、体調を崩した頃から意識するようになったという。

転職をする際も、新たな仕事を受ける際も、この3つの軸に従って行動しているという。だから、どの仕事、立場においても、夢中になれるし結果もついてきている。

これを読んだ方の中には、「黒田さんのように優秀な人材だからこそそれは可能なことで、自分には到底無理!」と思う方もいるかもしれない。僕らは、どうしてもいま置かれている環境ありきで、出来ることは何かと物事を考えがち。

だが、それこそまさに冒頭に書いた「石の上にも3年」的発想にとらわれているとは言えないだろうか? それで満足ならまったく問題はないが、行き詰まったときには「転がる石に苔むさず」のことわざもある。

それで言うなら黒田さんは、ボブ・ディランのような詩人タイプではないが、その働き方はまるで"Like a Rolling Stone”だ。一歩踏みこんだところにある自分の興味・関心を確認し、その気持ちとその人なりのルールに従って行動するのであれば、異業種への転向やフリーランスもいまは十分アリな働き方の選択肢である。


Profile

黒田悠介(くろだ・ゆうすけ)
日本のキャリアの多様性を高めるために自分自身を実験台にしている文系フリーランス。新しい『事業』『発想』『働き方』を生み出すことが生業。帽子とメガネがトレードマーク。東京大学→ベンチャー社員×2→起業→キャリアカウンセラー→フリーランスというキャリア。スタートアップやベンチャーのディスカッションパートナーを生業とし、新規事業の立ち上げを支援。フリーランスに関する情報を発信する「文系フリーランスって食べていけるの?」というメディアを運営。そのほか、アイディエーション講師/キャリアシナリオコンサルタント/CxO Discussion Partners 創始者/パーソナル起業トレーナー。2016年10月にはフリーランス集合天才紹介業を展開するブレンディッド株式会社にフリーランスでありながら取締役COOとして参画。

Interviewer

田中翼(たなか・つばさ)
1979年生まれ。神奈川県出身。米国のミズーリ州立大学を卒業後、国際基督教大学(ICU)へ編入。卒業後、資産運用会社に勤務。在職中に趣味で様々な業界への会社訪問を繰り返すうちに、その魅力の虜となる。気付きや刺激を多く得られる職場訪問を他人にも勧めたいと考え、2011年に「見知らぬ仕事、見にいこう」をテーマに仕事旅行社を設立し、代表取締役に就任する。100か所近くの仕事体験から得た「仕事観」や「仕事の魅力」について、大学や企業などで講演も手掛けている。
連載もの: 2016年12月26日更新

メルマガ登録いただくといち早く更新情報をお伝えします。

メルマガも読む

LINE@はじめました!

友だち追加
このページを気に入ったらいいね!しよう
はたらく私のコンパス《170種類の職業体験》 
あわせて読みたい

Follow Me!


PAGE TOP