2016年06月13日更新

地域おこしに見るアートの力—「小豆島 醤の郷+坂手港プロジェクト」になぜ人が集まるのか?

近頃ではネットニュースやテレビ等で、「地方創成」「移住促進」の取り組みを毎日のように見聞きするようになりました。しかし、そういったプロジェクトの中でも成功するものとそうでないものがあるそうです。

元システムエンジニアで会計システムコンサルタントの本多由佳さんが、小豆島のアートイベント「醤の郷+坂手港プロジェクト」への参加をきっかけに気づいた、地域活性の「いまとこれから」について執筆してくれました。(「シゴトゴト」編集部)


地域おこしの成功例は限られている


■「地域活性化」の活性化

ここ数年、どんどんと地域活性化という言葉をよく耳にするようになり、Uターン・Iターン等、地方への移住促進が進められています。

私自身、瀬戸内国際芸術祭2010など、全国各地でのアート・イベントへの参加をきっかけに、はじめは単純に各地方自体、イベント自体に興味を持っていたのが、段々とイベント開催・プロジェクト実施の背景やそのプロセスに興味がシフトしていき、移住にも興味を持つようになりました。

個人的にはつい3年ほど前まで、これほど各地域での移住者獲得争奪戦&PR合戦を目にすることも無かったように思えますが、最近は各地域での取り組みについて、探さなくても目に入るようになった気がします。

有楽町、東京交通会館にある「ふるさと暮らし情報センター」でのイベント開催スケジュールを見れば、毎日のように地方移住相談会や「地域おこし協力隊」募集・地方の暮らし体験ツアーの説明会が実施され、「地域おこし協力隊」のホームページでは絶え間なく募集の情報が追加されています。

(2016/5時点で募集中:約200件、過去募集は900件以上!。地域のPR、商品開発の担当者募集が多いですね)

上記のような地域おこし協力隊という制度、都内で行われている転職(I/Uターン)フェアなど行政主導のもの、行政主導以外でも個人・NPO・企業等によるさまざまな取り組みが行われていますね。

■成功/失敗のキーとなるのは?

それでも、成功例は限られているようです。

もちろん移住者が何人だから、観光客が何人増えたから成功など「成功」という物差しが定められているわけではないでしょう。

(例えば、街にゆったりとした優しい空気が流れていて、移住者も、元々住んでいた方も笑顔で・・そんな日々の営みがあれば成功ではないでしょうか?)

ただし、政府からの補助金頼み・投資資金が回収できない・赤字になるような政策は「成功」とは言えないでしょう。

よく耳にする成功例としてはやはり岡山県西粟倉村・徳島県神山町・島根県海士町・岩手県紫波町などでしょうか?

例えば、西粟倉。

ここは岡山県の最北東端、兵庫県・鳥取県と境を接し、面積の約95%が山林の小さな村です。この村一番の問題は過疎でした。人がいなければ問題は解決されないし、増えていくばかり。

ただ、仕事が無ければ人は増えません。

まず解決すべき課題として「地域に根ざした仕事をつくる」ことがありました。

一方、過疎化が原因で林業が衰退し、間伐が行われなくなり森林を維持していくことが難しくなります。

過疎・林業の衰退は相互にリンクする問題です。

これら2つの課題を同時に解決するために村民・役場など村全体が株主の株式会社「西粟倉・森の学校」が設立され、ここから「都会の人から資金を集め、そのお金で必要な機械などを購入、間伐材できた家具など、商品の製造販売を実施する」という策が打ち出されました。

間伐材を有効利用する商品は、使うと間伐が促進され、森が再生されます。

間伐材はまっすぐなものばかりではいので、柱としてのニーズはないかもしれません。

しかし、森の学校は割り箸・おもちゃ・バイオ燃料など、次々と間伐材を利用した新商品を開発し、従来は厚生労働省の補助金に頼っていた村の運営は、ついに2013年に村の事業のみで黒字化に成功しました。

結果、移住し、現地で起業する若手は増え、西粟倉村の木でつくられた家具は評判となりました。

ほか神山町はITインフラ整備による企業の誘致、紫波町は経営の観点を持った上での公民連携の施設開発、海士町は地域起業家となる人材の誘致、という策を中心に問題を解決、地域活性化に取り組んできました。

成功の要因はそれぞれ異なると思いますが、共通点としては——

①国からの補助金頼みではなく、プロジェクト自体が利益を上げること

②しっかりとしたコンセプト・案となるものがあること。方向性が定められていること。

③市長・村長などトップから住民まで地域が一体となって取り組んでいる(地域外の人に対しオープンである)こと。

④プロジェクトに専門性を持ったブレーンとなる人がいること

などが挙げられると思います。

小豆島のアートフェスで感じた目に見えない力


■アートの力と地域おこし

一方、商品開発やIT、地方での起業などとは異なったアプローチで地域おこしに取り組む人たちもいます。

それは「アートの力を活用した」アプローチ。

マーケターやコンサルタントではなく、アーティスト主導での取り組みです。

例として、2013年、瀬戸内国際芸術祭開催にあわせて実施されていた小豆島の「醤の郷+坂手港プロジェクト Relation Tourism」というプロジェクトがあります。

■プロジェクト立ち上げの背景 - 地域の問題意識とアートの力への期待

少し内容を見てみましょう。

プロジェクトが立ち上がった背景はやはり、人口減少・少子高齢化や医療・福祉・年金など、従来の社会保障のシステムに限界が来ている、という自治体での問題点の認識でした。

対策として、「[家族と地域社会を健全なものにする]こと-つまり地域の人の力を活かし、地域の力を高めることが必要だ」という小豆島町長の考えと、瀬戸内国際芸術祭2010の開催をきっかけとした、アートの力への期待——「アートは人々を感動させることができ、その感動を繋ぐことで人の繋がりもつくることができるのではないか」、「アートの力を地域社会の再生・教育・福祉・産業・観光などに繋げていけるのではないか」という考えが結びつき、このプロジェクトは始まりました。


「醤の郷+坂手港プロジェクト Relation Tourism」より(撮影:本多由佳氏)

■プロジェクトが目指すところ—「観光から関係へ」

プロジェクトが目指すところ、それは訪れる人、地元の人、クリエイター・・人と人、地域と地域の交流が生まれ、深められていくこと。

名所を巡る一度限りの「観光」ではなく様々な地域の人と人が出会い、その関係性が持続すること。

それがプロジェクトが謳っていた「観光から関係へ」です。

■プロジェクトの内容 – 目に見えるものと見えないもの

プロジェクトの内容は島外、様々なジャンルのアーティスト・クリエイターが地域に滞在しながら(アーティスト・イン・レジデンス)地元の人が気づかない地域の魅力・資源を再発見し、地域の人たちとともに磨き、発信していくというもの。

アート・デザインの視点から「持続可能な社会の在り方」を探るさまざまな
プログラムを展開していました。

開催地は小豆島の坂手港+醤の郷エリアが中心。ここは関西・四国からの玄関口として知られます。アートプログラムの内容は以下の例のようにさまざまです。

★「劇団 ままごと」による港の劇場 — 旧坂手幼稚園を拠点に、港周りを散歩しながら演劇・紙芝居を行う。地元の人々から聞いたエピソードがストーリーに盛り込まれていくというもの。

★「umaki camp」-設計者とコミュニティが協働してセルフビルドされた地域のコミュニティスペース。

★「anger from the bottom」-ヤノベケンジさん+ビートたけしさんによる巨大彫刻作品。

★「醤油倉庫レジデンス」-老舗醤油会社の倉庫を活用、アーティストが滞在製作、鑑賞者もその風景に立ち会える。

上記は一例で、期間中は大小約20のプログラムが実施されていました。

ただ、実際に瀬戸内国際芸術祭2013を訪れた際、プログラム開催地だったほかの地域(直島、豊島、高松など・・)よりも視覚に訴えてくる作品が少ない印象でした。

(アートといえば直島にある草間彌生さんの「かぼちゃ」のようなモニュメンタルなものをつい想像してしまう私は、そのことを少し不思議に思ってしまいました)

しかし、のちにこのプロジェクトについて書かれた本を読むと、「なぜ視覚的に訴えてくる作品が少なかったのか?」が少しわかりました。

『小豆島にみる日本の未来のつくり方: 瀬戸内国際芸術祭2013 小豆島 醤の郷+坂手港プロジェクト「観光から関係へ」』という本です。



各プログラムについての考察、プロジェクトの構想など、より詳しく記載されているので、ぜひ読んでみてください。

私が本書を読んで抱いた感想は、「各アートプログラムの主題であると同時に土台となっていたものは、“作品そのもの”ではなく島内外の人々の繋がりではないか?」というものです。

たとえば坂手に建つ「エリエス荘」—— 島外からのアーティストの滞在製作場所。

ここは単なるスタジオ、製作の場所ではなく、地域に開かれたスペースとしても機能していました。つまり、役場スタッフ・地域の人・滞在者の日常的な交わりが行われていたのです。

島に滞在し、製作を行っていたアーティストと島民の方が相互にオープンな関係性で接し、自発的なそのやりとりが作品にも反映されていったのでしょう。

本書にはその様子がつぶさに描かれています。

これを読むことにより、観光客として島に行ったときには見えなかった部分を知ると同時に、アートによる地域活性を持続可能にしていくためには、ただ著名作家を呼び込んだり、その人の有名作品を持って来るだけではダメなのでは? というふうにも感じました。

地域活性に正しい“テンプレ”はない


■大事なもの - アートの力も、人と人との繋がりも

このプロジェクトのように「しっかりしたコンセプト(土台)」の元で進められたとき、アートは名産品や、観光施設・モール、ご当地ゆるキャラよりも強力なパワーを発しうるのかもしれません。

また、いかなる施策の場合でも、やはり第一に重要なのは島内外の人々の繋がりです。それがあってこそ持続可能な地域社会像が、現実のものとして見えて来るのではないでしょうか?

先に商品開発・観光地化・PRありきではなく、ユニークなコンセプトや繋がりをつくることがとても大事だと思います。

これからどうなっていくの?

ただ、こちらも一つの実例にすぎません。地域を盛り上げる方法は上記の事例以外にもまだまだ埋もれていると思います。

たとえば・・・

・[広島県尾道]空家再生プロジェクト、尾道自由大学、尾道U2
・[香川県・秋田県]シェアビレッジ

結局は「これが正しい」というテンプレートのようなものが無いのは確かでしょう。

地域の取り組みや移住に関心がある方にとって、「各個人が地方の取り組み・働き方について知り、地域活性化の策を考えてみること」がまず大切なのは言うまでもありません。

その一方で、「地域活性化全体のムーブメントそのものを本当に“活性化”するためには、何が必要なのか?」を少し引いた目で眺める視点も必要な時期かもしれません。

記事:本多由佳(元システムエンジニア/会計システムコンサルタント)

<参考リンク>

★ふるさと暮らし情報センター(東京)
http://www.furusatokaiki.net/about/location_tokyo/

★地域おこし協力隊
http://www.iju-join.jp/chiikiokoshi/search/result/

★小豆島にみる日本の未来のつくり方: 瀬戸内国際芸術祭2013 小豆島 醤の郷+坂手港プロジェクト「観光から関係へ」
http://www.seibundo-shinkosha.net/products/detail.php?product_id=4191

★umaki camp
http://dotarchitects.tumblr.com/
http://umakicamp.main.jp/

★神山町
http://www.ashita-lab.jp/special/637/

★西粟倉村
http://nishihour.jp/

★紫波町「オガールプロジェクト」
http://www.huffingtonpost.jp/2014/09/10/shiwa_n_5795002.html

★[広島県尾道]
・空家再生プロジェクト
http://www.onomichisaisei.com/
 
・尾道自由大学
http://onomichi-freedom-univ.com/
 
・尾道U2
http://news.mynavi.jp/articles/2014/04/04/u2/

★[香川県・秋田県]
・シェアビレッジ
http://sharevillage.jp/
https://www.makuake.com/project/sharevillageproject2/

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